敏腕メイドと秘密の契約
30分後、天音の車が事務所に到着すると、おかっぱで可愛らしい顔をした清楚な女性が玄関から出てきた。

天音は運転席から降りて、助手席のドアを開けた。

「天音さん、お迎えありがとうございます」

「待たせたかな?"弥生"さん」

「いえ、時間通りです」

ニッコリと微笑んだ"弥生"が恥ずかしそうに天音を見上げた。

"こんな顔もできるんだ"

見かけは別人でも、中身は"三浦藍"
胸が高鳴るのを必死で隠して、天音は弥生を助手席に乗せた。


倉本家の使用人には、先週のうちに"天音の婚約者が同居することになった"と伝えてある。
"弥生"の荷物も午前中に運び込まれているはずだ。

帰宅中の車内で、弥生の"設定"について確認をした。

これまで、天音の部屋には、ハウスキーピングを担当する数人の使用人が出入りしていた。

使用人を疑いたくはないが、天音の部屋には会社のパソコンと繋がっているものが数台ある。部屋に他人を出入りさせないに越したことはない。

"料理も掃除もできる婚約者が、今後は天音の身の回りの世話をする"

"婚約前の甘い時間を邪魔されたくないから"

そんなもっともな理由を証明するために、天音と"弥生"は同居することになった。

「お帰りなさいませ、天音さま、弥生さま」

庭師の坂本とメイドの栗林、シェフの千葉が玄関先で二人を出迎えた。

3人とも50代で、天音が小さいときから勤務している使用人だ。

この他にも、栗林が休みの時に派遣会社から派遣されてきている清掃要員が数名出入りしていた。

二人はリビングで待つ両親に挨拶するべく、屋敷のなかに入っていった。
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