藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「いや、いいよ」

「いいの? 少しくらいなら話す時間あるんじゃないの?」

「心実《ここみ》の顔見たら仕事行きたくなくなるから」

「そう?」

「また明日の昼にでも電話するって言っといて」

「分かった」

「あっ、そうだ。藍子ちゃん」

「うん?」

「店でメロン食べた事は、翡翠には内緒ね」

「はーい」

返事をしながら車を下りて運転席を覗き込むと、トワさんはそれを分かってたかのようにこっちを見てて、「またね」と笑顔で手を振ってくれるから、あたしも小さく手を振り返して助手席のドアを閉めた。


門扉を開けて中に入り、玄関ドアに鍵を差し込むと、ようやくトワさんの車が発進する。


走り出した車のエンジンの音を背中で聞きながら、玄関のドアを開けると「ただいま」を言うよりも先に、琢《たく》ちゃんがリビングからひょっこりと顔を出した。


「おかえり」

「琢ちゃん、ただい――ん?」

リビングのドアから体を半分だけ出してる琢ちゃんは、何故かこっちに向かって口をパクパクさせる。
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