藤堂さん家の複雑な家庭の事情
誤魔化そうとする琢のその態度が分かりやすくて可笑しかったトワは、クスクスと笑いながら「早番だからね」と答えた。


「早番、誰かに代わってもらえないの？」

「俺か翡翠しか出来ないから無理だね」

「じゃあ、絶対一緒に祭りに行けないの？」

「うん。そうだね」

「絶対の絶対？」

「うん」

「どうにかならないの？　オレ、惣一郎君も一緒がいい」

「俺が行くと翡翠が行けなくなるよ？　それは嫌だろ？」

トワの言葉に「うーん」と唸って悩み始めた琢の頭に手を置き、「明日、楽しんでおいで」と笑ったトワに、


「んじゃ、今年は翡翠君と行って、来年は惣一郎君と行く！」

閃いたというように琢は笑顔を向ける。


その言葉に一瞬答えに詰まったトワを、不本意ながら助けたのは藍子だった。


琢が言葉を放ったタイミングで開いたキッチン側にあるリビングのドアから、「うー」と唸りながら藍子が姿を見せる。


乱れる髪を押さえながらリビングに入ってきた藍子は、「お兄ちゃんにグチャグチャにされたあ」と愚痴るように言葉を放った。


ここに卑猥な発言を好む人間がいたら、藍子が言っているのが髪の事だと分かっていても、ナニをシていたのか分かっているだけに、「何を？」だの「どこを？」だのと言ってただろう。
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