続・マドンナブルー
 長尾と咲羅が試合会場を後にしたとき、外は薄暗くなっていた。電車で来ていた二人は、駅までの道を並んで歩いていた。

「門倉先生、今日は付き合っていただきありがとうございました」

 長尾は上機嫌で言った。彼の咲羅に接する態度は、平素の同僚に向けるものに戻っていた。

「いえ、別に」
「僕のわがままで恋人のふりまでしていただいて、本当にありがとうございました。お礼もしたいので、よかったら今から飲みに行きませんか?」

 ついさっき咲羅は長尾の友人の前で、長尾の要望で彼の恋人を演じたのだ。そのときの長尾は、本物の恋人同士のようになれなれしい振る舞いをしたのだった。それが、打って変わって今となっては同僚に戻ってしまった。恋人のふりをしてほしいという頼みが、遠回しの求愛だという可能性は低いと思われた。では、いったい彼はどんな思惑で、咲羅にそんなことを言ってきたのだろうか。

「長尾先生、一つお聞きしていいですか?」
「はい」
「なぜ、今日私は長尾先生の恋人のふりをしないといけなかったんですか?」

 純粋に疑問をぶつけたつもりだったのだが、困惑した長尾の顔を見て、聞いてはいけないことだったと悟った。彼は無言になってしまった。

「私、何かいけないこと聞いちゃいました?」

 彼はうろたえており、何か言葉を探しているようだった。こんな彼を、咲羅は初めて見た。質実剛健な印象の普段の彼とはかけ離れている。彼に、多少はときめいていたのだ。彼に誘われるたび、少なからず期待する気持ちもあったのだ。狼狽する彼を見て、咲羅はもてあそばれていた気分となった。いいように利用されていただけなのではと思い、むかむかと腹が立ってきた。

「長尾先生。黙ってないで、何とか言ってください」

そう詰問した。なおも長尾は困ったように無言だった。

「津島さんて親友なんですよね?なんで、そんな親しい人にわざわざ見栄を張らないといけないんですか?あんな演技までして。初め、長尾先生は遠回しに私に告白してるのかなって思ったんですけど、そういうわけではないですよね?私、長尾先生に何か利用されてるんですか?」

 何か言いたそうに、長尾は目を泳がせながら口をもごもごさせていた。そんな彼の煮え切らない態度にさらに腹が立った。

「もういいです。私一人で帰りますから」

 もう長尾とは一緒にいたくなかった。咲羅はきびすを返し、彼と逆方向へ向かおうとした。

「門倉先生!待ってください!」

 彼の声が背に当たった。振り返ると、彼は何か覚悟を決めたようにたたずんでいた。

「確かに門倉先生がおっしゃるように、僕はあなたを利用してました。本当にすみませんでした」

 失望と落胆で、咲羅はわびしさを覚えた。なぜ、自分はこんなにも恋愛と縁遠いのだろうか。自分がかわいそうにも思えてくる。

「利用したって、どういうことですか?友人に恋人を自慢するためってことですか?」

 いくらでも女性が寄ってきそうなモテ男の長尾である。わざわざ友人と咲羅を偽ってまで、自分の体面を保とうなどという度量の小さい行為はしないように思えた。

「僕は、そもそも津島を友人などとは思ってません」

 では何なのだと突っ込む前に、包み隠さず説明しようと覚悟を決めている長尾は、自分から話を続けた。

「津島は友人ではなく、僕の好きな人なんです」
「はい・・・・・・?」

 予期せぬことだったので、意味がすぐには理解できなかった。

「僕は同性愛者なんです。僕は、津島を愛してるんです」

 
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