続・マドンナブルー
咲羅と長尾の関係は、彼女の期待通りに進んでいるように思われた。彼らはすでに、もう四回も二人きりで食事をしている。何かと気が合い、会話は弾んだ。
いつも長尾が咲羅を誘った。そのたびに、咲羅は少なからず華やいだ気分となった。しかし食事をするだけで、いつもレストランの駐車場で二人は別れた。デートも三度目で進展があると言うではないか。いかにも恋愛慣れしていそうな社交的な長尾にしては、いささか慎重すぎやしないかと咲羅は感じていた。
そんな煮え切らない二人の関係が進展したのは、五度目の食事のときだった。
いつものように、長尾と別れた咲羅が自分の車に向かうとき、彼女の背に、「門倉先生!待ってください!」と、長尾の力強い声が当たった。咲羅はどきっとした。ようやく待っていたことが始まった、と胸が高鳴った。しかしそれは、長尾への想いからくるものというより、恋愛経験の乏しい自分の、形勢逆転を期待する気持ちが勝った。しかし、動機はそんなものでいいと思った。付き合っていく過程で好きになったという話は珍しくない。
咲羅が希望を秘めて振り返ると、長尾は緊張した様子でたたずんでいた。そんな弱気な彼を初めて見た。やがて、彼は思い切ったように口を開いた。
「門倉先生、今度の日曜日お暇ですか?」
ついにきた!次のステップとなるデートのお誘い。
「は、はい!」
咲羅は笑顔で答えた。
「ああよかった。その日、よかったらボクシングを見に行きませんか?」
「はい?」
予期せぬことを言われ、面食らった。普通、デートといったら映画とかドライブではないか。ボクシングって・・・・・・。まあスポーツマンらしい精悍な雰囲気の長尾のことである。学生時代ボクシングをかじったことがあるとか、いくらでも理由は考えられるが・・・・・・。
「え、ボクシングですか?」
いくぶん困った表情を咲羅がしていると、長尾はあわてたように付け加えた。
「突然ボクシングとか言われても困りますよね。格闘技とか、女の人苦手な人多いですし。いやー実は、僕の友達の試合なんです」
「そうなんですか。ちょっとびっくりしました。ボクシングなんて全然なじみのないことだったので。でも、べつにいいですよ。私、そういうの苦手ってわけでもないので」
長尾が安堵の表情を浮かべた。
「それと、もう一つお願いが・・・・・・」
彼は申し訳なさそうに切り出した。
「その友人に見栄をはってしまって、彼女を連れて行くと言ってしまったんです。それで、そのう、僕の恋人のふりをしていただけないかと・・・・・・」
ふたたび咲羅は困惑した。見栄をはるような間柄の友人の試合をわざわざ見に行くだろうか。そして、なぜ恋人のふりをしないといけないのだろうか。遠まわしに、恋人になってくださいと言っているのだろうか・・・・・・。
咲羅は、わけが分からないまま、とりあえず首を縦に振っていた。
いつも長尾が咲羅を誘った。そのたびに、咲羅は少なからず華やいだ気分となった。しかし食事をするだけで、いつもレストランの駐車場で二人は別れた。デートも三度目で進展があると言うではないか。いかにも恋愛慣れしていそうな社交的な長尾にしては、いささか慎重すぎやしないかと咲羅は感じていた。
そんな煮え切らない二人の関係が進展したのは、五度目の食事のときだった。
いつものように、長尾と別れた咲羅が自分の車に向かうとき、彼女の背に、「門倉先生!待ってください!」と、長尾の力強い声が当たった。咲羅はどきっとした。ようやく待っていたことが始まった、と胸が高鳴った。しかしそれは、長尾への想いからくるものというより、恋愛経験の乏しい自分の、形勢逆転を期待する気持ちが勝った。しかし、動機はそんなものでいいと思った。付き合っていく過程で好きになったという話は珍しくない。
咲羅が希望を秘めて振り返ると、長尾は緊張した様子でたたずんでいた。そんな弱気な彼を初めて見た。やがて、彼は思い切ったように口を開いた。
「門倉先生、今度の日曜日お暇ですか?」
ついにきた!次のステップとなるデートのお誘い。
「は、はい!」
咲羅は笑顔で答えた。
「ああよかった。その日、よかったらボクシングを見に行きませんか?」
「はい?」
予期せぬことを言われ、面食らった。普通、デートといったら映画とかドライブではないか。ボクシングって・・・・・・。まあスポーツマンらしい精悍な雰囲気の長尾のことである。学生時代ボクシングをかじったことがあるとか、いくらでも理由は考えられるが・・・・・・。
「え、ボクシングですか?」
いくぶん困った表情を咲羅がしていると、長尾はあわてたように付け加えた。
「突然ボクシングとか言われても困りますよね。格闘技とか、女の人苦手な人多いですし。いやー実は、僕の友達の試合なんです」
「そうなんですか。ちょっとびっくりしました。ボクシングなんて全然なじみのないことだったので。でも、べつにいいですよ。私、そういうの苦手ってわけでもないので」
長尾が安堵の表情を浮かべた。
「それと、もう一つお願いが・・・・・・」
彼は申し訳なさそうに切り出した。
「その友人に見栄をはってしまって、彼女を連れて行くと言ってしまったんです。それで、そのう、僕の恋人のふりをしていただけないかと・・・・・・」
ふたたび咲羅は困惑した。見栄をはるような間柄の友人の試合をわざわざ見に行くだろうか。そして、なぜ恋人のふりをしないといけないのだろうか。遠まわしに、恋人になってくださいと言っているのだろうか・・・・・・。
咲羅は、わけが分からないまま、とりあえず首を縦に振っていた。