吐露するキズ跡

「じゃ後でね、タメナガさん」

田村が人をかき分けながら消えて、代わりにトウゴと羽が入ってくる。

二人とも、タキシードだ。

トウゴさんがかっこいいのは当たり前だな。

チラッと見て、後は羽に意識を奪われる。

スーツもラフな格好もいいけど、タキシード、良すぎ。

知らない誰かと話しながら歩いてくるのを、ずっと見てると

「かっこいいな、羽」

ふいに上から声がした。

トウゴさんの声。

あたしは羽から目を離すのがもったいなくて、トウゴさんの方は見もせずに、

「ズルい。あたしよりいっぱい見たでしょう」

「着替えてるとこからね」

あたしは言葉を失って、トウゴを見上げる。

そんなとこ、見たくないわ。

思ったけど、シャツのボタンをかけてるとことか、スーツに腕を通してるとことか。

一瞬考えて、羨ましくなった。

ちょっと、見てたかったかも。

瞬演奏から離れる。
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