ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「清瀬さん、心臓がもたないから手加減してください……」
私が両手で顔を覆って泣き言をもらすと、「あらあら!」と見ていた由美子さんがほほえましそうに笑い声をあげた。
ペンションの玄関の扉を開けると、前が見えないほどの大粒の雨が地面を叩きつけていた。
駐車場に停めた車はすぐそこだけど、たった数メートルの移動でずぶぬれになってしまいそうだ。
「今傘を……」
そう言って玄関にある傘を手にした由美子さんを、低い声が呼び止めた。
「ふもとの道が通行止めになってるぞ」
驚いてふりかえると、このペンションのご主人、寺沢さんが立っていた。
「通行止めですか?」
清瀬さんがスマホを取り出し道路情報を確認する。確かに小規模の土砂崩れがおこり、通行止めになっているようだ。
「どうしましょう」
スマホの画面から視線をあげ、顔を見合わせる。
他のう回路があるだろうか。でも、あったとしても、こんな大雨でしかも夜で、慣れない山道を走るなんて大丈夫なのかな。
そう不安に思っていると、寺沢さんがぶっきらぼうに言った。
「部屋は空いてる。今日は泊まっていきなさい」
話も聞いてくれないくらい頑な態度をとっていた寺沢さんが、泊って行けといってくれるとは思わなかった。