ホテル御曹司が甘くてイジワルです


生まれてから高校生を出るまで過ごした山間の田舎町はどこを見ても緑ばかりだ。
海が見えないのがなんだか新鮮で、でも少し物足りない。

住んでいる期間はこっちの方がずっと長いはずなのに、いつのまにかあの港町が自分の居場所になっていたんだと実感する。

二階建ての木造のアパートは私が生まれた時から住んでいる家で、今は母がひとりで暮らしている。
仕事に向かうために身支度中の母は、肩のあたりで切りそろえた髪をうしろできゅっとひとつに結んだ。

看護師をしている母は毎日忙しそうで、久しぶりに帰ってきた愛娘が畳に転がっていようが家から一歩も出ずにいようが特に気にせず仕事に向かう。


この放任っぷりが心地いい。
清瀬さんの家も、こんなふうに居心地がいい場所だったらよかったのに。

生まれた時から後継者になることを決められ、政略結婚も当たり前だと言われる人生。
私には想像もできないけれど、孤独や苦しみをひとりで抱え続ける辛さは、少しならわかるつもりだ。

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