ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「三木はもともと来月までの契約でしたが、彼女から退職したいと申し出があり、社長に相談の上昨日付で退職してもらいました。今までも、秘書としての仕事よりも自分や三木コーポレーションを売り込むことばかりに熱心で、社長も彼女には辟易していましたから」
遠山さんの言葉に、清瀬さんが「わかった」と短くうなずく。
自分を清瀬さんの婚約者だと言った三木さんが、これからもずっと彼の秘書としてそばにいるのかと思うと少し複雑だったけれど、やめることになったんだ。
ほっとしながらも、少し胸が痛む。
『彼に必要なのはあなたじゃなくて、私です』と、まっすぐに私をみつめて言った三木さんの表情を思い出す。
きっと、彼女は彼女で清瀬さんのことが好きだったんだと思う。秘書としてそばにいられるのは限られた期間だけ。その中で、清瀬さんの気を引きたいと必死だったのかもしれない。
「それから夏目様」
「はい!」
遠山さんの視線が清瀬さんから私にうつり、思わず背筋を伸ばす。
「寺沢シェフとの交渉に協力していただいたこと、社長が大変感謝されていました。彼がまた表舞台に戻るという噂で業界はもちきりです。ありがとうございました」
深々と頭を下げられ、私は慌てて首を横に振る。
「いえ、感謝されるようなことは、なにもしていないので……」
「オーベルジュのオープニングイベントで、社長がぜひご挨拶をさせていただきたいとのことです」
「あ、はい。ぜひ。よろしくお願いします」
少し緊張しながら頭を下げる。
清瀬さんのお父さんは、どんな人なんだろう。