ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「東の空が薄っすらと赤らんで、新しい朝がやってきました。日の出を眺めながら投影を終えたいと思います。本日はありがとうございました」
そうアナウンスすると、客席のあちこちから夢から覚めたような小さなため息がもれた。
まどろむようにゆったりと流れる空気を壊さないように、ドーム内の照明をゆっくりと明るくし、出口を示す誘導灯を点灯する。
プロジェクターやコンソールの電源をオフにしてから移動し、プラネタリウム室の出口につけられた分厚い遮光カーテンを開け、扉を開く。
お客様がそれぞれに伸びをしたり身支度をして席を立つ。
旅行者らしき家族連れ、仲の良さそうな恋人たち、大学生くらいの女の子。
背中で開いた鉄の扉を押さえながらぱらぱらと出口へと向かうお客様に「ありがとうございました」と頭を下げていると、誰かに視線を向けられているのを感じた。
瞬きをすると、ドームの一番後ろに座っていたお客様がこちらに歩いてくるところだった。
ときどきこのプラネタリウムに来てくれている、すらりと背の高い三十代前半くらいの男の人。
いかにも上質そうな紺のスリーピースを嫌味なく着こなしたその人と目が合った途端、一瞬言葉を無くしてしまう。
その人が、まっすぐに私のことを見つめていたから。