ホテル御曹司が甘くてイジワルです


「珍しいでしょう。壁沿いのベンチに並んで座るから、座席数は約五十なんですよ」
「へぇ……! こんなプラネタリウム、はじめてです。座ってみてもいいですか?」

私がたずねると、田端さんは「どうぞどうぞ」と笑ってくれる。

壁に背をもたれベンチに座る。
リクライニングがないけれど、端に座っているからドームの頂点まで見上げられる。

星の映っていないクリーム色の天井を見上げて、そこに星空が投影されている様子を想像する。

「座る場所によって、正面の方向がばらばらになるんですね」

固定式の座席なら普通南が正面になるけれど、この座席ならそうもいかないだろう。

「そうなんですよ。だからこの星の右側を見てくださいなんて説明の仕方はできないから、ポインターが大活躍でした」

田端さんが懐中電灯をポインターに見立てて、丸い天井を照らして笑う。

「小学校の社会科見学なんかだとね、誰が最初にお目当ての星座を見つけるか、みんなで空を指さして大騒ぎですよ。普通の座席と違って、隣や正面に座るお友達の顔が見えるから、よけいに盛り上がるんでしょうね」
「すごく楽しそう」

その様子を想像して、思わず顔がほころんでしまう。
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