冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「昨日用意しておけばよかった……」

「そんなんじゃ、親族の前でも慌てちゃうよ。一度コーヒーでも飲んでリラックスしなさい」

「はい」


今日は臨時株主総会だ。今ごろまさに、了の解任決議が行われ、まあ反対票が大量に入る理由もないから、了はこのまま退任するだろう。

親族会のメインは、了のつるし上げらしい。気心の知れた顔ぶれが、『拓の倅がやらかしたぞ、いじろう』と昼食のテーブルを囲むのだ。親族とはいえ各人が会社を率いるトップだ。好意的でありつつ、了を品定めする眼差しは容赦がないはず。了は緊張の面持ちで朝、出ていった。

その中で了の進退に次ぐ大きなトピックが、私との結婚発表だ。特に挙式や披露宴を考えていなかった私たちにとって、機会という意味ではこの上なく発表に適した場だと、了と話していて気づいた。

べつに私が失態をしでかしたところで、だれが結婚に反対するわけでもないだろうけれど、こういう場での振る舞いは一生の印象を左右することを知っている。

多少ナーバスになるのも当然だ。


「恵は遊んでる?」

「朝ごはんのあと、また寝室でごろごろしてたわ」


遅めの昼食も兼ねた会だそうで、まだ出るには時間がある。メイクを仕上げる前に、私はまこちゃんのアドバイスに従い、コーヒーをいれることにした。

すっかり緊張している。なにせ結婚なんてはじめてのことだ。

キッチンに行き、コーヒー豆の入ったキャニスターを開けようとしたとき、寝室のほうからまこちゃんの声がした。


「さおちゃん、恵、熱がある!」


……え?

寝室へ走った。声の調子から、ちょっと身体が熱い程度じゃないとわかったからだ。恵はマットレスの上でぐったりして力なく泣いていた。


「恵……!」

「私が病院につれてくよ。食欲はあったんだよね? 顔色も悪くないし、尿も出てる。ひとまずそんなに心配ないと思う」

「いつも恵は、熱があっても元気なの。こんなにぐったりしてることって……」

「うーん、溶連菌とか、子どもの感染症の可能性はあるね。まずは病院だ。私がみてるから、さおちゃんは自分の支度してて。さおちゃんも大事な日でしょ!」


まこちゃんがてきぱきと保険証や母子手帳を用意する横で、私は呆然と座り込み、恵の汗ばんだ額をなでた。
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