冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「さあ、これで晴れて無職な俺です」
家事育児するぞ、と張り切る了に、それじゃまこちゃんが職を失ってしまう、と私は懸念を表明した。
まこちゃんが作ってくれた夕食をつつきながら、「大丈夫、ちょっとの間だけだから」と了がうなずく。
「来年から新しい仕事を始めるよ。それまでも、家にいるとはいえ残務整理があるし、真琴さんには変わらずお世話になる」
「仕事って、なにするか決めたの?」
「ジョージのところで働かせてもらうことにした」
「そうなの! ほかから声がかかってたのは?」
了は無言でにこにこして、首を横に振った。
「俺ねえ、大学出てすぐソレイユに入ったんだ。まあ跡継ぎって立場も意識してたんだけど、それ以上にね」
妙に満足そうに、お箸を口に運んで微笑む。
「経営者、狭間拓をすごく尊敬してるんだよね」
私はお疲れさまの意味を込めて、彼のために用意しておいたワインをグラスに注いだ。恵も寝込んでいるから、ほんの少量、気分だけだ。
「そうだったのね」
「大ファン。本人には言ってないけど。俺、本書けるくらいあの人の経営学を勉強してるよ。だからできたら、それを感じられる場所を離れたくない」
とても納得だと思った。了は素直だけれど、挑戦心も冒険心もある。ただ跡継ぎだからという理由だけで親の会社に居着くタイプじゃない。
「できたら現場に放り込んでほしいんだよね。貴重な機会だから」
「実現には、狭間了であることが邪魔をしそうね」
「そうなんだよ」
残念そうに眉尻を下げてはいるものの、やっぱり楽しそうだ。よかった。
悔しさも無念さもあるだろうに、それを胸にしまって、明るい部分を探して歩ける人。これは了の強さだ。