冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
ただ編集部を出たあとは仕事での接点もなくなった。私の凋落が耳に入っていないはずはないだろうに、電話の相手が私だとわかると、『どうしてるか気になってたの』と喜んでくれた。ありがたい。

私が『個人的な興味で』と切り出すと、『秘密なのね、そういうの好きよ』と返す察しのよさ、ノリのよさも相変わらずだった。

私が聞きたかったのは、以前編集部に庶務として入ってきて、三カ月くらい務めた女性のことだった。私が副編だった当時の話だ。そんなに人の出入りが激しくない編集部だし、その女性は非常に印象深かったから期待はしていた。そしてまさしく彼女は記憶していた。


『おぼえてるわよ! あの好戦的な人! 会社のルールは徹底して無視、だけど自分ルールを邪魔する人間のことは公然と批判する。あの子がいる間、飽きなかったわねー』


そして私がいくらがんばっても思い出せなかった、舞塚祥子(まいづかしょうこ)という名前と、彼女が使った派遣会社までさらりと記憶の底から引っ張り上げてくれたのだ。

それがソレイユ・スタッフィングだ。すべてはソレイユにつながっている。本当に大手さまさまだ。

ジョージさんがふむふむと納得の声をあげる。


『舞塚祥子。それが了に逆恨みをして迷惑行為をはたらいているお嬢さんのお名前ですか。よくそんな短期間の派遣社員をおぼえてましたね?』

「印象の強い人だったの。人間関係も仕事関係もめちゃくちゃにトラブルを引き起こすんだけど、そのぶん交渉を頼んだら必ずもぎ取ってきてくれた」


名前と同時に、ぼんやりしていた顔立ちもはっきりと思い出した。面長の美女で、しかし服装やメイクはちぐはぐなほど幼く、たとえばパステルカラーでふわっと開く、膝より少し上のスカートなど、まるで女子大生のような感じだった。


『会社というものが向いてなかったんでしょうね』

「そういう人もいるわよね。記憶が不確かなんだけど、どこかのお嬢さまだって触れ込みだったと思うの。犯人の条件はそろってると思って。でも、ここからどうしたらいいか。彼女の連絡先なんて、さすがに探れないわよね」

『了の愛する女性の頼みでしたら、総力を挙げて探らせるのもやぶさかではありませんが、残念ながら探るまでもありません。舞塚ならよく知っています』

「え?」
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