冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「……あったんだけど、今は大丈夫。それより急いで」

「了くんに聞いてもらえる話?」

「うん」

「恵の記録はつけておいたから、見ておいて!」


今度こそまこちゃんは出ていった。リビングで恵が折り紙をびりびりにしている以外は、家の中はきれいに掃除されている。冷蔵庫には保存容器が整然と並び、今日明日困らなそうなおかずが詰まっていた。

了と、本当に今の契約で適正な待遇なのか相談しないと。

食べたものや排せつの回数、昼寝の時間などの保育記録は、サーバ上で管理することにした。了がフォームを作り、三人でシェアしている。

ソファに座り、ラグの上で無心に折り紙をやぶる恵のうしろ頭を見ながら、携帯で確認した。今日の恵の様子が手に取るようにわかる、無駄なく明快な記録だった。

私は知っている。まこちゃんは保育の知識とはべつに、そうしたほうが相手が助かるという理由だけで自分の労力を差し出せる、根本的な親切心を持っている。だから接客業で愛されるのだ。

だけどその才能を活かす場を与えられなかった。ただポリシーや好きなものが、大多数の人と同じでないというだけで。


──申し訳なさそうにしたら?


ため息がもれた。


『あるよー。バスに乗ってたら、私が男だって気づいたおじさんが、違うバスに乗れって怒りだしたこともあったよ』


まだ恵がお腹にいたころ、まこちゃんがふと語ったことがあった。


『理解できないものを排除したがる性格と、他人に対して極端に無礼に振る舞える人柄が合わさった、最悪の例ね』

『自分がこんなだから、長年考えてきたんだけど、たぶんね、"異端が許容されている世界が許せない"人たちがいるんだよね』


うーん、と難しい顔で、まこちゃんは言葉を選んでいた。異端を許せないのじゃなく、異端が許されていることが許せない……。
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