冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「了のことは本気で好きなように見えたのよ」

「さすが、鋭い。そうなんですよ、彼女はSelfishで働く前からうちの受付をしています。そのときに了と会っているんです。このボンクラはおぼえていなかったようですが」

「受付の人の顔なんて、そんなに見なくない?」


ぐいと頭を押しやられ、ばつが悪そうに了が言い訳する。


「女性の顔を見ないなんて失礼は、俺ははたらかない」

「そりゃ、お前はそうかもしれないけどさ……」

「いい素材がいたらスカウトしなきゃだろ? そんなに朴念仁でどうするんだよ」

「そういう人に会ったときは、見る前から感じるんだよ」

「なにを」

「なにかを……」


ジョージさんはあからさまなため息をつき、肩をすくめた。このふたりは同い年ということだけれど、ジョージさんのほうが兄貴分ぽい。


「了、あなた人を見ればわかるじゃない。舞塚さんになにを感じた?」


少しくたびれた様子の了が、ぱちっと目を見開いた。記憶を探るように視線を動かし、やがてまたカップを口元に持っていく。


「ひずみ、かな。なにと戦えばいいかわからないから、手に取る武器も間違ってるし、闘争心が空回りしてる。十代には多いんだよね、そういう状態。あの年齢まで引きずると、攻撃力だけ上がっちゃって危ない。すごくアンバランス」


鋭くも優しい、了の観察眼だ。そしてここでもまた相手のわからない"戦い"。


「反省したかどうかは知りませんが、了からきつく言われたのはこたえたようです。こいつ、女性相手なのに手加減なくてねー。怖い怖い」

「加減したよ! 男だったらついでに殴ってた」

「なにを言ったの?」

「『早織は僕の大事な妻で、娘の母親だ。彼女に害意を向ける人間を、僕は絶対に許さない。今度なにかするときは、記憶の中の都合のいい僕じゃなく、今の僕のこの顔を思い出してからにするんだね』とこう。容赦ないですよねー」


ジョージさんが、自分の武勇伝であるかのような態度で声色を使って語り、了は隣で肩身が狭そうにコーヒーをすすっていた。

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