Monkey-puzzle
◇◇
田所さんがメールを送った張本人で、それを課内にバラまいたのが真田さん。
その事実を突きつけられて、明らかに真理さんの表情が陰った。
…真田さんの目論見が読めて来た。
この前、ここでモメた時と同じ手口。
真理さんに精神的なダメージを与えて、頭の中で物事を整理出来ない様にして追いつめる。
口を閉じろと言う理不尽な上司命令を素直に守って、黙ったまま一つ溜め息をついた。
真理さんは、嫌われ者でだけどきっと真田さんだけはと思っていた所があった。それは悔しいけど俺も認めている。だから、そこを利用した。そんな所かな、真田さんの戦略は。
『真理の事はよく分かってる』…ね。
真田さん、確かに長く一緒に居ただけの事はあると思うよ。
ちゃんと真理さんの性格を利用して自分の都合の良い方に転がす術を知っているんだから。
…だけどね、真田さん。
申し訳ないけど、あなたの目論見通りには絶対にさせない。
あなたは確かに真理さんをよくわかっているかもしれないけれど、俺だって俺なりに真理さんを見てきた人間だから。
真理さんの“力”をちゃんと理解しているんですよ、これでも。
顔色の悪くなった真理さんの繋いでいる手を引き寄せて、今度は俺が思い切り力を込める。
その痛みで眉間に皺を寄せた真理さんが口を尖らせて俺を一瞥する。視界の端に捉えたその表情はいつも俺と話す真理さんの表情に戻っていた。
今度は上からそっと掌で覆う。
“ねえ、真理さん。
気が付いて。
俺が居る。”
…どの位、気持ちが伝わったかは分からない。
一度目を臥せて息を小さく震えながらも吐き出した真理さんは、その瞳に煌めきが宿り、穏やかながらも凜としている気がした。
「…確認させてください。真田課長は先ほど『俺が悪い』とおっしゃいましたね。
それはつまり、送られてきたメールを課内にばらまいたと言う事ですか?」
聞きやすい落ち着いたトーンの声。いつもの、『仕事モード』の真理さんだ、明らかに。
「と、亨は関係ありません!それは…」
田所さんが真田さんの代わりに答えようと、少し身を乗り出した。
それを真田さんが「優香」と少し掌をあげて制する。
「…ここまで来て嘘をついても仕方ないだろう。」
抑揚なく落ち着いた言い方が妙にひっかかる。
誰がどう考えたって、課内にメールをバラまいた真田さんに非があるのにも関わらず、ここに漂う空気は真逆な気がした。
まるで…真理さんに非があるような…。
「…お二人とも理由を教えて頂けませんか?
もし私の仕事でご不満がおありでしたら、その内容を真田にクレームを入れてくだされば済んだ事。
わざわざあのような嫌がらせメールを送るのはお互いに不利益しか生まれません。
真田課長もまた然りです。いくら私の行ないに嫌悪感を抱いていたとしても、バラまくと言う行為は如何なものでしょうか。」
言った真理さんを見ぬまま、真田さんが「だからさ…」と大袈裟な程に大きな溜め息を吐き出した。
「…そういう所だろ。」
「どういう事ですか?」
「そうやって、いつでも落ち着いて理路整然と真っ正面から相手を斬りつける。だからこういう事が起きるって言ってんだよ。
確かに俺達のやり方は間違っていたかもしれない。
だけど、そこまで歪んでしまう程追いつめたのは誰だ?って話。俺達だけじゃない。お前の事を気に食わないと思っているヤツなんてごまんと居る。それら全部、お前の態度に端を発してるんじゃないのか?」
…責任転嫁。
内容は”逆恨みでメールを送った”と告白しているようなもんだけど、真田さんの話し方が流暢で、もっともらしく聞こえる。
「…田所さん、そうなのですか?」
ゆっくりと真理さんが視線を田所さんに移すと、眉間に皺を寄せめいっぱいその瞳を潤ませた田所さんは少し口を尖らせる。
「…確かに“クライアントの私”に対してあなたはとても丁寧でした。非の打ち所がない位に。だから、余計に嫌悪感を覚えたのは確かです。
亨の事情を私は知っていましたから。」
「優香」と真田さんが一応たしなめはしたけれど、相の手みたいなもんだよね、それ。寧ろ田所さんに火に油を注ぐ行為だって言うのは明らかで、案の定、田所さんは「いいの、言わせて」と顔を少し引き締めた。
田所さんがメールを送った張本人で、それを課内にバラまいたのが真田さん。
その事実を突きつけられて、明らかに真理さんの表情が陰った。
…真田さんの目論見が読めて来た。
この前、ここでモメた時と同じ手口。
真理さんに精神的なダメージを与えて、頭の中で物事を整理出来ない様にして追いつめる。
口を閉じろと言う理不尽な上司命令を素直に守って、黙ったまま一つ溜め息をついた。
真理さんは、嫌われ者でだけどきっと真田さんだけはと思っていた所があった。それは悔しいけど俺も認めている。だから、そこを利用した。そんな所かな、真田さんの戦略は。
『真理の事はよく分かってる』…ね。
真田さん、確かに長く一緒に居ただけの事はあると思うよ。
ちゃんと真理さんの性格を利用して自分の都合の良い方に転がす術を知っているんだから。
…だけどね、真田さん。
申し訳ないけど、あなたの目論見通りには絶対にさせない。
あなたは確かに真理さんをよくわかっているかもしれないけれど、俺だって俺なりに真理さんを見てきた人間だから。
真理さんの“力”をちゃんと理解しているんですよ、これでも。
顔色の悪くなった真理さんの繋いでいる手を引き寄せて、今度は俺が思い切り力を込める。
その痛みで眉間に皺を寄せた真理さんが口を尖らせて俺を一瞥する。視界の端に捉えたその表情はいつも俺と話す真理さんの表情に戻っていた。
今度は上からそっと掌で覆う。
“ねえ、真理さん。
気が付いて。
俺が居る。”
…どの位、気持ちが伝わったかは分からない。
一度目を臥せて息を小さく震えながらも吐き出した真理さんは、その瞳に煌めきが宿り、穏やかながらも凜としている気がした。
「…確認させてください。真田課長は先ほど『俺が悪い』とおっしゃいましたね。
それはつまり、送られてきたメールを課内にばらまいたと言う事ですか?」
聞きやすい落ち着いたトーンの声。いつもの、『仕事モード』の真理さんだ、明らかに。
「と、亨は関係ありません!それは…」
田所さんが真田さんの代わりに答えようと、少し身を乗り出した。
それを真田さんが「優香」と少し掌をあげて制する。
「…ここまで来て嘘をついても仕方ないだろう。」
抑揚なく落ち着いた言い方が妙にひっかかる。
誰がどう考えたって、課内にメールをバラまいた真田さんに非があるのにも関わらず、ここに漂う空気は真逆な気がした。
まるで…真理さんに非があるような…。
「…お二人とも理由を教えて頂けませんか?
もし私の仕事でご不満がおありでしたら、その内容を真田にクレームを入れてくだされば済んだ事。
わざわざあのような嫌がらせメールを送るのはお互いに不利益しか生まれません。
真田課長もまた然りです。いくら私の行ないに嫌悪感を抱いていたとしても、バラまくと言う行為は如何なものでしょうか。」
言った真理さんを見ぬまま、真田さんが「だからさ…」と大袈裟な程に大きな溜め息を吐き出した。
「…そういう所だろ。」
「どういう事ですか?」
「そうやって、いつでも落ち着いて理路整然と真っ正面から相手を斬りつける。だからこういう事が起きるって言ってんだよ。
確かに俺達のやり方は間違っていたかもしれない。
だけど、そこまで歪んでしまう程追いつめたのは誰だ?って話。俺達だけじゃない。お前の事を気に食わないと思っているヤツなんてごまんと居る。それら全部、お前の態度に端を発してるんじゃないのか?」
…責任転嫁。
内容は”逆恨みでメールを送った”と告白しているようなもんだけど、真田さんの話し方が流暢で、もっともらしく聞こえる。
「…田所さん、そうなのですか?」
ゆっくりと真理さんが視線を田所さんに移すと、眉間に皺を寄せめいっぱいその瞳を潤ませた田所さんは少し口を尖らせる。
「…確かに“クライアントの私”に対してあなたはとても丁寧でした。非の打ち所がない位に。だから、余計に嫌悪感を覚えたのは確かです。
亨の事情を私は知っていましたから。」
「優香」と真田さんが一応たしなめはしたけれど、相の手みたいなもんだよね、それ。寧ろ田所さんに火に油を注ぐ行為だって言うのは明らかで、案の定、田所さんは「いいの、言わせて」と顔を少し引き締めた。