Monkey-puzzle
ギュウウウウッ
「痛ってぇ!」
素知らぬ顔で力を思い切り指に込めた。
「どうしたの?渋谷?」とにっこり笑ってみせた私を涙目の渋谷が横目で睨む。
いいでしょ。この位はさせて。
渋谷の気持ちは嬉しかったけど私に何も言わずに行動したのは嫌だったから。
私の問題だからと言う事もあるけど怒りたいのはそこじゃない。女性相手とはいえ、嫌がらせメールの犯人と二人きりになるなんて危険だよ。
渋谷に万が一の事があったら、それこそ私はショックだから。
何かを感じとったのか、亨が咳払いでその場の雰囲気を戻す。
「…渋谷。口を挟むなと言ったろ。」
「はいはい。」
亨のたしなめに、またムスッとして、背もたれに寄っかかる渋谷を横目で見て、再び視線を田所さんへと移す。けれど田所さんとは変わらず視線は合わないまま。それでも話を進めなければと口を開いた。
「確認しても良いですか?田所さんがあのメールを送ったと言うのは間違いないですか?」
田所さんは亨の顔を一度見てから唇を噛み締め、俯いた。
「…はい。」
認めた…か。
だけど、田所さんは三課の誰かにメールを送れても、他の全員に転送するなんて事は出来ないはず。
そうなると、田所さんからのメールを受け取ってそれを転送した”誰か”がいる訳で…。
思わず、亨の顔を見た。
いや、可能性の問題だから、確定ではないけれど。
『俺、分かっちゃったんだよね。メールをバラまいた”犯人共”』
渋谷は答えを分かっている。
その渋谷に『口を挟むな』と言っている…。
気持ちに影が生まれて明るい部分を浸食していく。
「…ねえ、亨が転送したの?課の皆に。」
「…。」
押し黙る亨に答えがイエスなんだと確信した。
…亨に私以外に女が居るのはわかっていた。
仕事の詰めが甘い部分もあった。
けれど、社内でどうしてもうまく立ち回れない嫌われ者の私が課内から完全に村八分にされないよう気を回してくれていた。
その亨が…私を嵌める片棒を担いだ…
いくら女癖が悪くて、仕事が出来なくても、“亨だけは私をわかってくれている”と思っていた…のに。
頭の奥で、何かが崩れて、目の前がぼやける。
私…そんなに人としてダメ?
誰からもそうやって嫌われるの?
ギュウウウウッ
「痛っ!!」
突然、もの凄い力で絡まっている指が握られて反射的に今度は私が声を上げてしまった。
怪訝そうに私を見た田所さんと亨に愛想笑いを浮かべる。
「す、すみません。何でもありません…。」
……仕返しだな、渋谷め。
抗議の目で渋谷を見ても相変わらず素知らぬふりで目も合わない。
けれど、私がひと呼吸するタイミングで優しくキュッと握り直され、渋谷のもう片方の掌がそれを丸ごと包み込む。
都合が良い話なのかもしれないけれどそこに感じる温もりに
“真理さん、落ち着いて。大丈夫”
そう、そこから伝わって来た気がして、渦を巻いていたはずの高波的な感情は少しずつ収まりさざ波へと変化していく。
…そうだよ、感傷に浸っている場合じゃない。
きちんと話をしなければ。
それが今、私に出来る事だ。
「痛ってぇ!」
素知らぬ顔で力を思い切り指に込めた。
「どうしたの?渋谷?」とにっこり笑ってみせた私を涙目の渋谷が横目で睨む。
いいでしょ。この位はさせて。
渋谷の気持ちは嬉しかったけど私に何も言わずに行動したのは嫌だったから。
私の問題だからと言う事もあるけど怒りたいのはそこじゃない。女性相手とはいえ、嫌がらせメールの犯人と二人きりになるなんて危険だよ。
渋谷に万が一の事があったら、それこそ私はショックだから。
何かを感じとったのか、亨が咳払いでその場の雰囲気を戻す。
「…渋谷。口を挟むなと言ったろ。」
「はいはい。」
亨のたしなめに、またムスッとして、背もたれに寄っかかる渋谷を横目で見て、再び視線を田所さんへと移す。けれど田所さんとは変わらず視線は合わないまま。それでも話を進めなければと口を開いた。
「確認しても良いですか?田所さんがあのメールを送ったと言うのは間違いないですか?」
田所さんは亨の顔を一度見てから唇を噛み締め、俯いた。
「…はい。」
認めた…か。
だけど、田所さんは三課の誰かにメールを送れても、他の全員に転送するなんて事は出来ないはず。
そうなると、田所さんからのメールを受け取ってそれを転送した”誰か”がいる訳で…。
思わず、亨の顔を見た。
いや、可能性の問題だから、確定ではないけれど。
『俺、分かっちゃったんだよね。メールをバラまいた”犯人共”』
渋谷は答えを分かっている。
その渋谷に『口を挟むな』と言っている…。
気持ちに影が生まれて明るい部分を浸食していく。
「…ねえ、亨が転送したの?課の皆に。」
「…。」
押し黙る亨に答えがイエスなんだと確信した。
…亨に私以外に女が居るのはわかっていた。
仕事の詰めが甘い部分もあった。
けれど、社内でどうしてもうまく立ち回れない嫌われ者の私が課内から完全に村八分にされないよう気を回してくれていた。
その亨が…私を嵌める片棒を担いだ…
いくら女癖が悪くて、仕事が出来なくても、“亨だけは私をわかってくれている”と思っていた…のに。
頭の奥で、何かが崩れて、目の前がぼやける。
私…そんなに人としてダメ?
誰からもそうやって嫌われるの?
ギュウウウウッ
「痛っ!!」
突然、もの凄い力で絡まっている指が握られて反射的に今度は私が声を上げてしまった。
怪訝そうに私を見た田所さんと亨に愛想笑いを浮かべる。
「す、すみません。何でもありません…。」
……仕返しだな、渋谷め。
抗議の目で渋谷を見ても相変わらず素知らぬふりで目も合わない。
けれど、私がひと呼吸するタイミングで優しくキュッと握り直され、渋谷のもう片方の掌がそれを丸ごと包み込む。
都合が良い話なのかもしれないけれどそこに感じる温もりに
“真理さん、落ち着いて。大丈夫”
そう、そこから伝わって来た気がして、渦を巻いていたはずの高波的な感情は少しずつ収まりさざ波へと変化していく。
…そうだよ、感傷に浸っている場合じゃない。
きちんと話をしなければ。
それが今、私に出来る事だ。