Monkey-puzzle


「…亨が言っていました。“捨てられた”って。自分が課長になった途端、もう必要無いと言わんばかりに。ばっさりと。
どうしてもっと亨を見てあげなかったんですか?時には私的感情だって大切ではないんですか?情とか優しさとか…あなたにはそういうものが一切無い。
亨は優しいし、本当は一途な人なんです。けれどあなたは一向に亨に寄り添おうとせず、ただ都合良く亨を利用して…。そんな風にされたら歪むに決まっています。なのにそれにも気が付かないで、渋谷さんに目移りして。
だから私は、あなたがどうしても許せなかった…。」

「いや、優香。実際に止めなかったのは俺だから…」

「だって、それはこの人が亨を追い詰めたからだよ?」

「まあ…それはそうかもしれないな…。真理、お前が俺からあっさりと離れて行った時は相当気持ちが落ちて暫く立ち直れなかったから。」


二人のやり取りをジッと見ている真理さんの瞳が潤い揺れる。


「確かにメールを送って仕舞ったのは悪い事ですけど、あなたの態度が引き起こしたんだと言う事を…亨の気持ちをわかってあげてください。」


…すげえ理不尽。
理由はどうあれ、あんな誹謗中傷メール送ったヤツがまずは悪いに決まってんだろ。

冷静に聞いてる俺からしてみたら、『何言ってんだ?あんたたち』と思う所なんだけれど、口を出すことを封じられている今、こ感情の部分をかき回されている側とかき回す側の一対二の布陣のせいで真理さんが悪者。悪者にお仕置きを与えた、二人のヒーローと言った雰囲気になっている。

メールの行為が正当化されて、寧ろ褒められる事だと言う一歩手前。

これが真田さんの筋書きってわけだ。


「……。」

真理さんは黙ったまま、また少し表情を暗くして俯いた。



「まあでもさ。お前のキャラを今更直すのも大変だろうし。俺の側に居て仕事してりゃ、人間関係は俺がうまくやってやるから。な?」


それに真田さんの勢いが増す。

歪んだ笑顔で真理さんを見る真田さんに反応して、思わず互いの絡めた指に力がこもった。


真理さん…どうする?
俺、いつでもこの人殴り倒す準備、出来てるよ?


そんな腸が煮えくりかえっている俺を諭すように、真理さんの指に少し力がクッと一度入った。


“大丈夫だよ、渋谷”


そう言わんばかりに。



「確かに、今まで人付き合いがうまい亨に甘えて仕事に没頭出来ていたもんね。」

…確かに、顔をあげた真理さんはこの前、真田さんと二人でここで話していた時とは明らかに違った。


追いつめられても尚、冷静な口ぶり。


けれどその違いに気が付いているのは俺だけらしい。

真田さんは、事が思い通りに進みそうなのを満足そうにほくそ笑み「だろ?」と椅子の背もたれに大きく身体を預けた。


「…田所さん。今回のワークショップで初めて田所さんとご一緒させていただいた訳ですが…私の態度や振る舞いがあなたを追いつめていたなんて。
本当に申し訳ありませんでした。」


真理さんが頭を下げると、視線をまた真理さんから逸らす田所さん。


「別に今更謝られても。」

「いえ、謝らせてください。お話を聞いていると、真田とは元…とはいえ、恋人であったし、それをさっぴいても相当親しい仲のご様子。それなのに、全てを知り、その上で私と表面上はうまく接しなければならなかった。とても辛かったと思います。嫌な役回りをさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
そして、私に気が付かせてくれた事、深く感謝をして改善をしなければいけないと思っております。」

「べ、別に…確かに、亨は昔付き合っていましたけどまた幼馴染みの大切な人に戻りました。私、今は…」

含みある言い方をし、俺に潤んだ目を向ける田所さん。その様子に真田さんも俺に目線を向けた。

「まぁ…渋谷、そう言うことだ。
だから言ったろ?木元だけにあまり懐くなと。」

…俺が真理さんに懐いたから、田所さんがそれを気に食わなくて、それがメールを送る原因の一旦になっているって?

何その子供じみ過ぎる理由。


言葉を発する代わりに目を細め、真田さんを睨みつける。

不意にまた、真理さんが繋いでいる手に力を少しこめた。

表情は…変わらず穏やかでそれでいて真剣な表情のままで。

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