珈琲プリンスと苦い恋の始まり
そんな時に、どうすれば此処での時間が楽しいものになるだろうかと考えたのだそうだ。

趣味でもない囲碁や将棋なんかをさせられて過ごすのも嫌だな…と思い、他のデイサービスとは違う特別な時間を演出するにはどうしたら良いかを皆で協議していたら俺の店の珈琲の話題になったと言う。


「社員の一人が『贅沢な時間を送った』と言いましてね。それには他の者も同意見だったんですよ。

だから、何とかしてあの喫茶店の雰囲気を此処に持ってこれないだろうかと言い出して、それにはマスターに頼んで、喫茶店ごと出張してきて貰うのが一番手っ取り早いだろうということになりまして」


珈琲の香りや色でも、五感を刺激できると話したそうだ。
俺はその話を真剣に受け止め、自分の店が役に立てるのなら是非出張してきましょう、と答えた。


「しかし、あの古民家の雰囲気をそのまま此処に持ち込むことが出来るとは思えませんが……」


珈琲を淹れる道具なら幾らでも持ち運べる。
どうすればいいでしょう…と相談すると、それは此方に任せておいて大丈夫だと言われた。


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