珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「いらっ……しゃいませ」


ギクリとして、ぐっと息を吸い込んだ。
まさか彼女が店にやって来るとは思わなかった。



「こんにちは。この間はどうも」


ドアの前で立ち止まっていた彼女は、そう言うと敷居を跨いで入ってくる。

店内に足を着けると何処に座ろうかと迷うみたいで、キョロキョロと周囲を見回していた。


「どうぞ、こっちへ」


自分の前へ来るように勧めると、彼女は少し躊躇うような顔をしたがやって来た。

弾みをつけるようにしてカウンターチェアに腰掛け、「珈琲を下さい」と喋った。


「はい、畏まりました」


俺はいつも以上に丁寧な返事をしてお湯を沸かす。

そのまま無言でいるのもこれまでとはギャップがあり過ぎるなと思うから、「今日はどうしたんだ?」と態とらしく訊いてみた。


「仕事は?」


豆を挽きながら訊ねてみると、彼女は小さな声で「午前中はお休み」と答える。
それで、何処で何をしていたかまでは答えず、俺もそれを聞き返さずに、「ふぅん」と短く唸った。


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