珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「これは何だ?」


砂浜に転がる白くて薄い楕円形のものを拾い上げた彼が訊く。私はその手に掴んだ物に目線を走らせ、「ああ、コウイカね」と呟いた。


「それはコウイカの骨よ。伝馬船みたいにも見えるから、私達は『イカのフネ』とも呼んでるの」


乾いてると海にも浮くと教え、貝殻と同じものだと話すと驚かれた。


「本当に博識だな」


「別に、誰でも知ってることよ」


素っ気なく返すと、また別のものを拾い上げる。



「じゃあこれは?」


今度は黒くて乾涸びた海藻。


「それはヒジキ」


「じゃあ水に戻せば食べれるのか?」


「そんなに育ちきったのは固くて無理よ。春先に出た新芽の部分を採取して、干してから食べる方が柔らかいし風味もいいの」


「そうか。何でもいいって訳じゃないんだな」


納得する彼に目を向け、どうしてこの人と海岸へ来ることになったのかを思い出してた。


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