その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
食事を終え、片付けをしている間に課長には先にシャワーを浴びてもらうことにした。

……食器を洗いながらも、浴室から聞こえてくる水音に、妙に反応してしまう。
課長がこの家のシャワーを使うのは二度目だけれど、今朝使った時は、朝の支度もしなければいけなくて若干バタバタしていたから、ドキドキまではしなかったけれど、今は気になってしまう……。

いや、だからドキドキなんて無意味なんだってば! 恋が始まる訳じゃあるまいし……。


片付けを済ませ、しばらくリビングでぼんやりとしていたものの、今日の分のバスタオルを出していなかったことに気付き、ハッとする。
慌てて用意し、脱衣所の扉の前まで行くと、ちょうど彼が浴室から出てきたような気配を感じる。

「課長、すみません。バスタオル出てなかったですよね?」

扉越しにそう声を掛ければ「ん? ああ、確かに」という返事が同じく扉越しに聞こえてくる。

じゃあここに置いておきますね、と伝え、扉の前にバスタオルを置こうとしたその時、扉が内側から開き、反射的に目を向ける。

「ありがとう。バスタオル貸して」

そう答えながら右手を差し出してくる課長の姿は、浴室から出たばかりだから当然裸で……


「ッ、キャーー‼︎」


それを見た私は、思わず大声をあげてしまった。


「お、おい。下にはタオル巻いてるって」

「だ、だからって! やめてください! そんな格好、ほんと、やめてくださいっ!」

思わず大騒ぎしていると、玄関の戸がドンドンと叩かれ、

「幹本さん! どうかしたかい⁉︎」

という大家さんの声が外から聞こえてきた。
しまった、と思い、慌てて玄関の戸を開け「す、すみません! 虫が出たもので、つい!」と謝る。
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