その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「虫って……幹本さん、そういうの平気な子だったろ? それに、やめてくださいって聞こえたけど、痴漢にでも侵入されたんじゃ……」

「ち、違います違います! さすがの私も巨大ゴキブリには驚いてしまいまして! だけど退治出来たので大丈夫です! 本当にすみませんでした!」

大家さんは多分納得してくれて、下の階の自分の部屋へと戻っていった。夜中に大きな声を出してしまうなんて、社会人失格だ……と落ち込む。


「だぁれが巨大ゴキブリだ」

その声に振り向くと、いつの間にかきちんと部屋着を身に纏った課長がそこに立っていた。


「痴漢が侵入、は間違っていないかと思います」

今のは絶対に課長が悪いと思い、そう言い返す。


更に言い返されるかと思いきや、

「……まあ、さすがにちょっと悪ふざけが過ぎたか。すまなかった」

と、あっさり謝られてしまった。そんな態度を取られたら、私も「あ、いえ」と返すしかない。


そのまま無言で、二人一緒にリビングへと戻る。

そして腰をおろすと、課長は肩に掛けていたタオルで髪をガシガシと拭きながら「本当、悪かった」ともう一度謝った。


「俺、こう見えて結構フザけたことが好きというか……バカなノリやって友達と楽しむこととか凄い好きなんだよ。さっきのもそういう感覚だったんだけど、悪ノリ過ぎたな」

真面目な顔でそう言うから、私ももう怒りは湧いてこない。


「いえ……私も冗談が通じなくてすみません」

よく考えたら、彼は私のことを女性としては見ていない。ということは、同性の部下扱いしてくれているということだ。上半身裸姿を見たくらいでキャーッと叫ぶなんて、彼も想定外だっただろう。
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