その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
しばらくはお互い無言で歩いていた。
更に少し経った頃、「飲み過ぎてないか?」とか「料理美味しかったな」とか、たわいない話題を出されて、私はその度に「はあ……」としか答えられなかった。
そしてその次に彼の口から発せられたのは、恐らく本題。
「あのさ、さっきの、俺全然気にしてないから」
「……え?」
さっきの、というのは、島月さんの発言のことに間違いないだろう。
……俺、全然気にしてない?
「まさか幹本さんが俺のことを好きとか有り得ないし、島月さんが酔っ払って変なこと言ってるなーとしか思わなかったよ。冷静に考えると、笑い話だよな」
笑い、話。
その言葉が、苦しい程に胸に突き刺さる。
島月さんがあんな風に私の気持ちをバラしたことは、勿論とてもショックだった。
だけどそれ以上に、私の気持ちを笑い話だと言われたことの方が悲しく感じる。
笑い話だと言われる位なら、ハッキリとフラれた方が全然マシだった。
そう思ったら、必死に堪えていた涙がボロボロと溢れて止まらない。
「幹本さん?」
私の名前を戸惑いがちに呼ぶ彼に、返事をすることも出来ずにただ泣き続ける。
もう嫌。
こんな思いをするくらいなら、課長のこと好きになりたくなかった。
やっぱり、恋なんてもうしなければ良かった。
「……先に帰ります。お疲れ様でした」
「え? いや、駅までは送ってーー」
「結構です。さよならっ」
私はその場から駆け出した。早く一人になりたかった。
家に着くと、電気も点けずにそのままベッドに入り込んだ。
さっさと眠って全てを忘れたかったけれど、涙が溢れてくるばかりで一向に眠くはならなかった。