その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
翌日。始業前の朝礼の時間に、女性社員達の視線を釘付けにする男性が現れた。

それは例の課長だ。


「武宮 柊一(しゅういち)です。よろしくお願いします」


低音なのによく通る、そしてどこか甘いその声にまで、女性達はメロメロになる。

彼の横に立つ部長が本日の予定を話し始めても、女性達の視線は部長ではなく武宮課長に向いている。


二重のパッチリとした瞳に、サラサラの黒髪。
微笑みを絶やさず優しげな顔をしているも、身長は高く、筋肉質な身体をしているのがスーツ越しでもわかる。
鼻筋は高く、形の良い薄い唇。
私は男性の顔になんて興味はないけれど、確かに彼は、世間一般的に言うイケメンで間違いないだろう。


武宮課長の紹介を含めた朝礼が終わると、課長は先程までの微笑みを絶やさないまま、営業課へとやって来る。


「初めまして。武宮です。立場上はこの課の役席ですが、この店の方針等については皆さんからご教授願いたいと思います」

そう話す姿は、言葉の中身は謙遜していて控え目なのに、佇まいや表情は堂々としており、遠くからこちらを眺めている事務課の女性達が未だにキャァキャァと楽しそうだ。
営業課にいるのは私以外は全員が男性なのでその様な黄色い悲鳴はないものの、隣で相田君が「憧れちゃうなあ、武宮課長」と私にだけ聞こえるように言った。もしかしたら内心そう思っている営業課の男性社員は相田君だけじゃないかもしれない。
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