惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「本気で付き合ってるんだっけ? 香奈のお兄さんを欺くためじゃなかったんだっけ?」


そのとおりだから悩むのだ。
正確に言えば、その夜のキスは二度目。一度目は車を降りたときに私がふらついたから、その拍子でうっかりだったかもしれないけれど、二度目はそんな状況ではなかった。

そしてその夜以降、眠りにつく前の定番としてキスが続いている。


「香奈のこと、本当に好きなんじゃない?」
「まさか!」
「だって、誠実そうな工藤副社長が好きでもないのにするとは思えない。実はもっと前から香奈を好きだったとか」
「ないないないないない」


激しく首を横に振る。それこそ絶対にありえない。
仕事で接する機会の多い部署にいるから、確かに副社長就任直後から話すことはあったけれど。かといって、どこをどう見ても平凡な私を陽介さんが好きになる理由はなにひとつ見つけられない。

だからこそ、さっきから何度もため息が漏れては消えていくのだ。


「この怪我がずっと治らなければいいのに……」


ギプスのはめられた左手を恨めしい目で眺める。

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