惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
怪我を負ってからおよそ二週間が過ぎ去った。残りはあと二週間。もう折り返し地点まできてしまっている。
「香奈は、副社長のこと本気になっちゃったんだね」
半分悲しそうに、半分優しく笑って琴子が言う。
そう……。私の心はもう陽介さん一色に染まっている。憧れの存在だけでは済まないところまできてしまった。
「無理もないよね。あんなに素敵な人なんだもん」
琴子の言葉に力なくうなずいた。
私が浅はかだったと今になって思う。兄の気を逸らすために偽物の彼氏を紹介しようとしたことも。それを陽介さんに頼んだことも。さらに言ってしまえば、空き巣に入られたあの夜、彼の部屋に転がり込んだことも、だ。
こうなる予測はついたはずなのに……。
「そういえば今週末の同期会、香奈ももちろん行くよね?」
トルティーヤにチキンを挟み、今まさに大きく口を開いて頬張ろうとしながら、琴子が尋ねる。
琴子に言われて同期会のことを思い出した。同期といっても五人だけ。女子は琴子と私のふたりで、男子は森くんを含めた三人。人数が少ないこともあり結束力が強く、結構頻繁に同期会を開いている。今回の幹事は琴子だ。
「うん、行こうと思ってる。お店はどこ?」
「それは当日のお楽しみで」
琴子はいたずらに笑った。