惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

◇◇◇

五ヶ月後。
街の風景から桜が消え、新緑の五月まであともう少し。陽が沈み静かな夜が訪れた軽井沢は、昼間とは違う冷たい空気に包まれている。アルカディアリゾートは、いよいよ明日オープンの日を迎える。

今日は午後から開発に携わった会社向けのセレモニーが開催され、穏やかなムードのままに閉会。私は陽介さんとふたりでゆっくりとリゾート内を歩いていた。

夜に溶けて見えないけれど、遠くに浅間山を抱いたアルカディアリゾートは厳かで凛とした空気の中にある。あたたかなオレンジ色のランプが等間隔に灯る遊歩道は、幻想的な雰囲気を醸し出していて、自分たちが美しい絵画の中に溶け込んだよう。


「いよいよ明日オープンですね」


手を引いて歩く陽介さんに笑いかける。


「多くの人に喜んでもらえることを祈るよ」
「そうですね」


二ヶ月前から始まった宿泊予約は、ありがたいことに半年先まで埋まっている。それは世間のアルカディアリゾートに対する期待の表れでもあるだろう。
その人たちが、どうかここで過ごす時間に満足できますように……。そう祈らずにはいられない。

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