惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「おじゃまします……」


陽介さんのあとを追ってそろりそろりと足を進めていくと、廊下の突き当たりのドアの向こうにとてつもなく広いリビングが現れた。その左隣にはダイニングキッチン。右側にドアがふたつあることから、ベッドルームとバスルームかもしれない。

余裕をもたせた造りの二LDKの部屋は、全体的にグレーのトーンで抑えられた落ち着きのある空間だった。


「適当に座って。なにか作るから」
「それなら私が」


そう言いかけて、無理なことを思い出した。この左手じゃ、満足に洗い物もできない。


「いいから香奈は座ってて。ここへ来る途中にどこかで食べようかとも思ったんだけど、香奈がまだショック受けてるようだったから自宅のほうがいいだろうと思って」


……私のことを気づかってくれたんだ。


「ありがとうございます……」


些細なことだけど、そんな気づかいが嬉しい。

お礼を言うと、陽介さんはわずかに口角を上げるだけで答えた。

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