惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
陽介さんが私の腰に手を回し、ぐいと引き寄せる。その反動なのか、彼の手によるものなのか、私はごろんと反転して陽介さんのほうを向く格好となった。
間近で合った視線をぎこちなく逸らし、咄嗟に身体を離す。ところがすぐにも連れ戻されて、今度は陽介さんの腕に抱かれてしまった。
「あのっ……」
「左手、大丈夫?」
「……それは、はい……」
大丈夫じゃないのは、私の心臓。さっきから早く刻み過ぎて収拾がつかない。
「身体の力を抜いて」
そんなことを言われても無理。こんな状況でリラックスはできようもない。
「香奈が嫌だと思うことはしないから」
鼓膜に届く声がいつも以上に甘い。それが胸の奥まで届いて、鼓動を暴れさせる。いくら酸素を肺に取り込んでも足りないくらいに息苦しかった。
これじゃ朝まで眠れない……。
そうしてじっと息をひそめていると、いきなり額にチュッとリップ音を立てて陽介さんの唇が触れた。