拾い恋(もの)は、偶然か?



「あれ、絶対部長の仕業よね。」


鳴海先輩が苦笑いでそう言う。


「当たり前でしょ。鬱陶しかったのよ絶対。」

確信しているとばかりに、松崎さんが胸を張る。その自信はどこから?ただの部署移動……いや、本当はそんなこと、微塵も思っちゃいない。

「部長、ですか。」


部長はもう、七瀬さんのことは解決したと言っていた。あの黒い笑顔はなにかあると思ってたけど。まさか部署移動させちゃうなんて。でも、部長が動いた以外理由が見当たらない。今は明らかに人事異動の季節じゃないし……。


「俺の仕業なんて、人聞きが悪いなぁ。」

「あ。」


私の背後からの声に、松崎さんがそう呟いた。

見上げれば、部長が笑顔でそこに立っている。


「音、ここいい?」

「……どうぞ。」

部長クラスは食堂で見かけることなんてほぼないのに。騒がしい食堂を一際盛り上げて登場した部長は、今日は肉うどんを持っている。


「野菜は?」

「要らない。」

「だめですよ。ちゃんと食べないと。」

そう言って私の定食についていた小鉢の切り干し大根を部長のトレイに置いた。



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