拾い恋(もの)は、偶然か?
「明日香さん、そんな軽口を。翔吾の婚約者としてしっかりしてもらわないと困るよ。」
社長が静かに口火を切る。やっぱりというかなんというか、予想していた展開に思わずがっかりしてしまう。
「翔吾もいい加減遊びはやめなさい。彼女に失礼だぞ。」
その言葉にゾッとした。社長はさっきまで確かに不機嫌丸出しでそこに座っていたのに。まるで何かのスイッチが入ったかのように冷静さを取り戻している。
いや、冷静すぎるのかも。社長はまるで、“この場に私がいない”ことを前提に話しているように見えた。
「父さん、俺は」
「明日香さんもすまないね。今日はせっかくの顔見せだというのに。」
社長の目に私は写っていない。それが、あなたはこの場に必要ないと言われているようで、胸が痛んだ。
社長が明らかにおかしいことをしているのに、戸惑いを見せているのは私と翔吾さんだけ。
「明日香さん、紅茶のおかわりはいる?」
「はい、いただきます。」
だからこそ、明日香さんとお母さんのそんな何気ない会話が妙に堪えた。
翔吾さんを見れば、なにかを言いかけたけどそれを飲み込んで、なにかに耐えるように唇を噛み締めている。