私の本音は、あなたの為に。
(冗談抜きで、私はいつも純粋な笑顔を見せる五十嵐が、本当に羨ましいよ)


私は、また両手で顔を覆って俯いた五十嵐を抱き寄せながらそう考えていた。


(五十嵐……)



すると。


キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……


スピーカーから、17:00を告げるチャイムが鳴り響いた。


誰も話さないせいで閑散としていた図書室には、その音がやけに大きく響いて。


「!」


五十嵐はチャイムの音に反応してびくりと肩を震わせ、


「何何!?…もう、チャイムかー」


チャイムの音に驚き、五十嵐の存在を忘れて立ち上がりかけた私は、支えを無くしてよろめいた五十嵐を既のところで押さえた。


「もう、17:00?」


泣き過ぎて真っ赤に充血した目を擦りながら、五十嵐が独り言の様に呟いた。


「うん、帰らないと。…五十嵐、立てる?今日は私が鍵返すから」


「…ん」


私が俯く五十嵐の手を引くと、彼はゆっくりと立ち上がった。


まだ何かに怯えているらしく、五十嵐は一向に目線を上げようとしない。


「ほら、眼鏡。…ちょっと、それ私のリュックでしょ?」


目を擦りながら私のリュックを取ろうとする五十嵐の手を、私は軽く叩く。


「五十嵐のリュックは、教室でしょ?」


「あ、そういえば!ごめん!」
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