私の本音は、あなたの為に。
そもそも目を開けていなかったらしく、五十嵐ははっとした様にぱっちりと目を開けた。


そして。


「嫌だっっ……!」


眉間にしわを寄せて目を見開いた彼は、弾丸のようなスピードで廊下へ出て行ってしまった。


「えっ、ちょっと?」


慌てて呼び掛けるけれど、時既に遅し。


図書室と廊下とを繋ぐたった1つのドアは、今まさに音を立てて閉まった所だった。


「んもう…」


閉まったドアと自分のリュックを交互に見た私は、はあっ、と大袈裟にため息をついた。


戻って来る気配のない五十嵐。


きっと、自分のリュックを教室まで取りに戻ったのだろう。


それにしても、私のリュックは重い。


「ふうっ……」


またもやため息をついた私は、自分のリュックを肩にかけ、


「重いよぉ……」


と、堪らずに愚痴を零しながら図書室の鍵を取り、廊下へ出た。



「五十嵐?早いね」


たった数メートルの距離で息を切らせた私は、もう戻って来ていた五十嵐を見て感嘆の声を上げる。


「ん?…ああ、走ったからね」


今度はしっかりと私の目を見た五十嵐は、照れくさそうに微笑んだ。


「鍵、返しに行こう」


先程とは打って変わって元気になっている五十嵐を見て、私は驚きながらもそう声を掛けた。
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