私の本音は、あなたの為に。
花恋って名前、何処かで聞いた気がする、と五十嵐は首を傾げながら、花恋にやんわりとそうお願いをした。


「分かった。じゃあ、怜音で」


花恋は1人で勝手に頷き、


「ピアノの本、あるー?」


と独り言を言いながら本棚の奥へ消えて行ってしまった。



「…花恋は、この前の活動日に音楽室でピアノを弾いていた人だよ」


私は、考え込む五十嵐に教える。


「えっ……あの、ピアノの上手い?」


五十嵐は、バラバラのパズルのピースが全てはまった時の様な、驚きと喜びが混ざった様な顔をした。


「うん。だから、ほら…」


私は花恋が消えて行った方を見やる。


そこには、


「ピアノの本……あっ、これじゃない。…ねえ優希、ここってピアノの本は置いてないの!?」


と私に怒りをぶつける花恋の姿。


「宮園。この前のピアノ、上手だったね」


そんな花恋を見て、笑いながら五十嵐が褒める。


「えっ…?本当?ありがとう!」


花恋は自分のピアノの腕を褒められて一瞬笑顔になったものの、助けを求める顔をして私の方を向いて来た。


「優希…ここには、ピアノの本は置いてないのかな?」


「花恋、一緒に探そう?」


私は花恋の元に駆け寄り、ピアノの本を探す手伝いをする。


途中で五十嵐の事が気になり、カウンター席の方を見ると、五十嵐は席に座って頬杖を付いて目を瞑っていた。
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