私の本音は、あなたの為に。
「……ごめん。…安藤、代わってくれない?」


やっとの事で絞り出された五十嵐の声は、本当に苦しそうで。


「うん」


私は、待ってましたとばかりにカウンター席へ回り、五十嵐の手からバーコードリーダーを受け取った。


私は本を素早くスキャンし、まだ目を瞑っている花恋の手に本を持たせる。


「終わったよ、花恋」


「えっ?…ああ、ありがとう」


私達の会話も聞こえていなかったのか、花恋は慌てたように笑った。



早速椅子に座り、ピアノの本を開き始める花恋を見届け、私は五十嵐の方を向いた。


五十嵐は、まだ放心状態だった。


花恋の名前を探せなかった事が、それ程ショックだったのだろうか。


確かに誰かに見られていたら、探せば探す程焦りが増して、見当たりにくくなる事はあると思う。


(そこまで落ち込まなくても…)


五十嵐の目が悪い事は、この数日で理解出来ている。


視力検査でAを取っている事は、棚に上げて。


「五十嵐、大丈夫?」


私はそっと声をかける。


「……うん」


か細いその声に、私はどうにかして助けてあげたい衝動に駆られる。


けれど、彼が何を求めているのかが分からない。


どうすればいいか分からないのだから、助ける術もない。
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