私の本音は、あなたの為に。
花恋の問いに答えたのは、寝ていたはずの五十嵐で。


今では目をぱっちりと開き、椅子から降りてバーコードリーダーを手にしていた。


「えーっとね、このファイルを…」


五十嵐は、前に玉村先生に教わったやり方でファイルを開いた。



「っ…!」


突然、ファイルの中身を目にした五十嵐が息を飲んだ。


本来のカウンター係の仕事は、生徒1人1人に設定されるバーコードを読み取り、生徒が借りたい本のバーコードをスキャンし、栞を挟むという作業だ。


けれど、五十嵐の手は、そのファイルを開けたままの形で固まっていて。


(どうしたんだろう、五十嵐)


私は黙って五十嵐の様子を見る。


花恋は、五十嵐の些細な変化に気が付かないようで、鼻歌を歌いながら目を瞑って手を動かしていた。


手の動かしから察するに、どうやら彼女の頭の中には鍵盤が浮かんでいる様だった。



未だに、五十嵐は1-2の生徒のバーコードが書かれているページを凝視したままで。


“宮園 花恋”と書かれている所をまだ探している彼。


逆からファイルを覗き見ている私でも、もう花恋の名前は見つけられているというのに。


五十嵐のバーコードを持つ手が、震えている。
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