私の本音は、あなたの為に。
「お兄ちゃんになりきれば、ママは喜ぶから。優しい嘘をつき続けよう」


その嘘が、いつまで続くのか見当もつかないまま。


私はそう決め、笑顔になった。




そして、花恋に見放された日から1ヶ月程が経った。


中学に入って初めての中間テストが終わり、皆の緊張感が溶けてきた頃の、帰りの学活の直前。


「お前、何でそんなに髪の毛短くしたんだよ」


「安藤、男じゃん」


私は、数人の男子からからかわれていた。


原因は、この短過ぎる髪の毛。


前は、花恋が庇ってくれたり一緒に言い返していたけれど、今の花恋は完全に見て見ぬ振りをしている。


もちろん、私は今でもママの前では男の振りをしている。


この所、随分と兄の芝居が上手になってきたと自分でも驚いている。


私がついている嘘は、“優しい嘘”。


そう気づけたから、兄が気づかせてくれたから。



けれど、私へのからかいは日々勢力を増し続け、あと少しでいじめに発展しそうな程になっていた。


「お前の兄ちゃん、死んだんだろ?」


その時、ある男子の言葉が私の脳を刺激した。


「死んだの、お前のせいじゃないの?いや、お前のせいだよ」


その言葉を聞き、自分でも眼光が鋭くなっていくのが分かる。


そんな自分を見られない様に、私は顔を最大限まで下げて俯いた。
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