遅すぎた初恋
電話はどちらから切ったのかわからない。
時間が止まってしまった。

死んだ?…
隆次が死んだ……?
隆次が……隆次が…

嘘だ!
結婚してまだ一年も経っていないんだぞ!
絵も認められつつあって、これからじゃないか!
星羅を幸せにしたいって穏やかに笑って私に言ってたじゃないか!

頭がガンガンする…。母の声がこだまする…。
隆次が死んでしまった、隆次が死んで……死んで…。隆次が死んだ。

星羅は…星羅は…どうしてる?

なんとか意識を引き戻し、榊を呼び寄せ。
とりあえずの支持を出し。車を回させ空港に向かう。
ニューヨークまでのチケットを持って、母が来るのを待つ。

機内で、母から詳細を聞く。

明後日から行われる、個展の為に星羅が昨日、日本を発って今日の夕方頃にはケネディ空港に着くという事で、先に行っていた隆次が空港に迎えに出たが、その途中で事故に巻き込まれたらしい。
後は現地に行ってみないと、分からないそうだ。

「星羅ちゃん大丈夫かしら」と、母がしきりに泣きながら私に聞いてくる。私も、星羅の事を思う。「彼女は大丈夫か?」
長い長いフライトになりそうだ。

結局一睡も出来ずに、外務職員と現地のスタッフに案内されるがまま遺体安置所に向かった。

職員が言うには、隆次の車に、前方不注意の後続車が激突してきて、そのまま押し出された形で側壁にぶつかったらしい。
即死だった。

奇跡的に顔は綺麗なものだった。表情は眠っているように穏やかだった。揺すってやれば目覚めるんじゃないかと思うほどに。
母は泣き崩れている。
「やっとまた一緒に居られるようになったのに…。子供が先に逝くなんて親不孝よ」

星羅は蝋人形のように何も言わず、ずっと隆次の横に立っていた。
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