遅すぎた初恋
つかの間の幸せ
星羅もお腹の子も順調なようで平和な日々を過ごしている。
親族も今のところは何も口出しはして来ない。元々彼女に好意的な人達は母のご機嫌伺いも兼ねて頻繁に会いに来るらしい。

吉爺もお子さんが生まれたら果樹園に何の木を植えましょうかと星羅と楽しく話し合っているそうだ。
私が生まれた時はさくらんぼで、隆次はすももだ。
星羅は「さくらんぼなんてお兄さんのイメージじゃない」と言いながらゲラゲラ笑っていたらしい。私はほっとけと毒づく。
星羅が戻って来た事で邸が前のように華やかになった。
星羅の存在が誰をも明るくしてくれる。

身重な彼女に少しでも好きなことに触れていてもらえたらと思い、皆には内緒で彼女に書斎の鍵を預けた。
「君以外は絶対人を入れるなよ。」という条件を付けて。

実際、内緒で、とはいったものの、それは周知の事実で「あの広高がねぇ。あんだけこそこそとしてたから、変な趣味でもあるのかしらって心配だったのに、あっさり星羅ちゃんには鍵を預けるなんてねぇ。」と、母を筆頭に皆が口々に言っているそうだが、触らぬものには祟りなしと暗黙の了解で星羅しか書斎には近づかない。
今は星羅が私にとって代わって、こそこそとしているようだ。ありがたい事に掃除までしてくれている。
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