遅すぎた初恋
仕事に追われつかの間の休息と思い実家に戻ったのは、秋に少し冬の空気が混ざる時期だった。

戻れば、星羅が犬のようにまとわりついてくる。
書斎のここをこういう風にしてはどうか?とかこの手入れはどうしたらいいか?この本は面白かったなどなど言って離れようとしない。

そしてぐいぐいと迫ってくるものだから、例の如く「だから近いっ!」っと言って顔を鷲掴みにして遠ざける。
星羅は苦しそうにフガフガとやっている、パッと離して頭をぐしゃぐしゃしてやると「妊婦に何て事をするんだ」と拗ねてやっと離れて行く。

その様子を見ている母には、「本当の兄弟みたいね。星羅ちゃんと居ると広高は人間に戻るから見ていて飽きないわぁ」と言われ、私は思わず「おいっ!母親!俺は人間だ!生んだのも育てたのもアンタだろっ!」っと心の中で宣ってやる。

続けて母が、
「星羅ちゃんも貴方が帰って来ると、本当嬉しそうなのよね。私達には見せない表情を出すからなんか妬けちゃうわ。
今一番一緒にいるのは私達なのに、呼びつけても無視決め込んで、滅多に顔出さないどっかの親不孝者に、一瞬で持っていかれちゃうんだから、本当に腹立つわ。薬でも盛ろうかしらって思っちゃうわよ。
でも、貴方に懐くなんてすごい事よね。いつも変な雰囲気を醸し出して、人を寄せつけないし、近寄ったら瞬殺でしょ。
我が子ながらあたし鬼の子でも生み落としちゃったのかしらって思ってたのよね。」
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