副社長は今日も庇護欲全開です
どうやら相手は外国人のようで、英語を話している。それも、かなり流暢で感心して聞き入っていた。

数分後、電話を終えた副社長が書類片手に立ち上がると、足早にこちらに来て私の正面に座る。

ドキッとしながらも彼を見つめると、副社長も真っ直ぐ私を見た。

「業務中なのに、時間を取らせて申し訳なかったな。海外支社のほうでトラブルが起こってしまって、対応に追われていたんだ」

「いえ、気になさらないでください。トラブルなんて、大変ですね」

やっぱり、緊急だったんだ。それにしても、副社長があんなに英語が上手だったなんて、尊敬してしまう。

“エリート副社長”と呼ばれることに、妙に納得してしまった。

「たまにね、いろいろあるから。それより、下原さん、あれから大丈夫だったか?」

「は、はい。大丈夫でした。あのときは、本当にありがとうございました」

どのタイミングでお礼を言ったらいいか悩んでいただけに、副社長から話題を振ってくれて有り難い。

それに、気にかけてくれたことが、素直に嬉しかった。

「そうか。それなら、よかった。少し気になっていたんだ。今後は、気をつけたほうがいい」

「はい。これからは、軽々しい行動は慎みます」

素っ気ない人だとばかり思っていたから、その言葉は心に響く。今回の事情がどうであれ、これからは意思を強く持って断ろう。

その決心を込めて言った私に、副社長は小さく口角を上げた。
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