副社長は今日も庇護欲全開です
それは副社長の声で、驚きいっぱいで振り向く。すると、訝しげに私を見る副社長の姿があった。

「副社長、お疲れ様です。外出ですか?」

このタイミングで会うなんて、途端に緊張してくる。今までも、フロアですれ違うことはあっても、玄関で会うことはなかった。

それに、月曜日に副社長と話をしてから顔を合わせるのは、今日が初めて。

一方的に知っていた頃より、今のほうが格段に緊張する……。

「いや、今日は仕事が早く終わったから、今から退社する予定なんだが……」

と言いながら、副社長は視線を外に向ける。傘を持っている副社長は、私の手元にさりげなく目を移している。

「俺でよければ、送ろう。傘がないんだろう?」

「えっ⁉︎ それは、申し訳ないです」

慌てて、両手を顔の前で振る。副社長の鋭さには感心するとともに、自分の今の状況を察せられて気まずかった。

「でも、濡れるだろう? それとも、誰かと待ち合わせだった?」

「いえ。そうではないんですが……」

車で送ってくれるということなんだろうけど、駅は徒歩で五分程度だから申し訳ないし……、

ためらっていると、副社長は私の側へ来ると、ごく当たり前のように言った。

「行こうか。下村さんは、どこまで?」

「えっ? は、はい。駅までです……。今夜は、駅前のモールで食事をして帰ろうかなと思って」

「そうか……。じゃあ、俺と同じ方向だな。行こう」

ビルを出た副社長は、傘を広げる。だけど、まだ玄関から出られない私を、肩越しに振り向いて見た。

「さあ、行こう」
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