副社長は今日も庇護欲全開です
「いや、足止めしたのは、むしろ俺のほうだ」

「そんなことはありません。また、副社長とお話する機会があればいいなと思っています」

緊張はするけれど、副社長は思っていた以上に話をしやすい。本音は、もう少し会話をしてみたかったけれど、そんな大胆なことは言えなかった。

「それでは、本当にありがとうございました」

会釈し立ち去ろうと身を翻しかけたとき、「ちょっと待って」と、副社長に呼び止められた。

「下村さん、食事をして帰ると言ってたよな。待ち合わせとか、予約はあるのか?」

「え? いえ。週末で時間があるので、食事でもしようと思ったんです。一人ですし、お店も決めていません」

もしかして、心配してくれているのかな……。たしかに、雨で電車が遅延しているようで、隣接するモールへ、人が流れている。

お店にすんなり入れるか、かなり疑わしい。すると、副社長が静かに言った。

「それなら、一緒に食事をしないか? 帰りは送る」

「えっ⁉︎」

まさか、食事に誘われるとは思ってもみなくて、一瞬言葉を失う。そんな私に、副社長は続けた。

「もう少し、きみと話がしてみたくてね」
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