副社長は今日も庇護欲全開です
島本さんの肩に手が置かれ、彼が振り向く。私も男性のほうへ目を向けて、思わず声を出しそうになった。

「あんた誰? 関係ないだろ?」

島本さんはムッとしたように、その男性を睨んでいる。だけど私は、その人が誰か分かり、彼に声をかけていた。

「あ、あの。真中(まなか)副社長ですよね?」

そう尋ねると、男性は静かに私を見た。

「そうだが……。俺を知っているのか?」

「は、はい。実は私、同じ会社の広報部で働いています。下村陽菜と申します」

と答えると、それまで強気だった島本さんが、おとなしくなった。

どうやら、真中副社長を知っているみたいだけれど、それは不思議じゃない。

なにせ、副社長は、テレビや雑誌で取り上げられるほどの有名な人だから。

“真中直哉(なおや)”という名前は、ビジネスマンなら一度は耳にしたことがあるはず。

私が勤める大手メディア企業の副社長であり、社長の息子でもあるという御曹司。

長身で甘いルックスのイケメンで、弟さんが二人いるはずだ。

たしか、それぞれ専務とグループ会社の副社長を務めていて、やっぱりイケメンだと噂されている。

経営手腕も抜群で、エリート御曹司として注目されている人だった。

さらに、三十歳で独身なのだから、本気で狙っている女性社員は多い。

そんな副社長に偶然とはいえ助けられて、恐縮でいっぱいだった。
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