副社長は今日も庇護欲全開です
見ると、メガネをかけた男性が、こちらに歩みを進めてくる。

知的な雰囲気の人で、涼しげな目元が印象的。副社長とはタイプの違うイケメンだ。

どうやらこの方は秘書らしく、腕時計で時間を気にしていた。

「ああ、そうだな。急ごうか。それじゃあ、下村さん気をつけて帰って」

「はい、本当にありがとうございました」

副社長はニコリともしないまま、秘書の男性と共に颯爽と立ち去っていく。

副社長たちがホテルを出たのを確認してから、私もこの場を後にした。

それにしても、今夜は本当に疲れたな。苦手なコンパに参加させられた挙句、初対面の男性と二人にさせられたのだから……。

それに、有難くも思いがけず副社長に助けられて、さらに疲労感が増した気がする。

「副社長も、やっぱり苦手だな……」

社内では、クールな人として知られている副社長は、とても厳しいとも聞いている。

きっと仕事だけでなく、普段からそういう人なんだろうし、今夜の私は副社長にどう映ったんだろう。

浮ついていると思われたなら心外だけれど、副社長と親しいわけじゃないのだから気にしなくていいか。

小さく深呼吸をして、ホテルの前で待機しているタクシーに乗り込んだ──。
< 8 / 123 >

この作品をシェア

pagetop