くまさんとうさぎさんの秘密
by熊谷 義明

「女口説くときは、こっちの方が都合良いんだよ。これ、二人しか乗れないから、迎えに行っても、絶対に邪魔が入らない。「二人しか乗れないんだ。」で、おしまいだからな。お前、軽トラに彼女乗せようとしてたって、八代に聞いたぞ」と、前嶋さんは、言った。

「軽トラも2人乗りです。二人の世界に邪魔は入らないです。あれは、借り物だけど。しかも、あまり誰も乗せてくれとは言わない。」と、俺は言った。

前嶋さんは、好きだ。でも、彼のチャラいやり方で口説かれちゃったのが、ひとみかと思うと、こういう話は、聞きたくない。こういう方面では、ちょっと考えが合わない気がする。

「車でも、ファッションでも、ちゃんと相手や場所を考えて選んでるってことが大事なんじゃん。彼女は、服やアクセサリーにも、ちゃんとポリシーありそうだよな。」
前嶋さんは、言った。
「ああ、何か、ライブハウス出入りするようになってから、ファッション関係の友達ができたみたいです。でも、選ぶって言ったって、車だって、もらいもんだってばれちゃってんじゃないですか。」

信号待ちの間、俺は、きよしさんのブログのトツプベージを見せた。
「こんな美女、軽トラで迎えに行っちゃダメダメ。」と、前嶋さんは言った。きよしのブログの中の優那は、前回チェックしたときより、更にプロっぽくなっていた。
「TPOもあるけど、キャラクターもあるじゃないですか。前嶋さんが乗ると様になってるけど、俺に似合う車じゃないですよ。ホント、出費にはなるけど、可愛いの買おうか迷ってたんですよ。」

「とにかく、俺は、この車は卒業なわけ。ちょっと可愛すぎんだよ。これ。若向けだろ。俺は、これから、他の車にチャイルドシート買いに行くんだ。ひとみとベビー迎えにいく車は、お前にはやらない。」
前嶋さんは、自慢気に言った。ホント、申し訳ないが、子どもっぽい。
「そうですか。。」
「あと、お前と彼女がラブラブな方が、俺も安心なんだよ。だから、とっとけよ。」

「こんな、ファッションひとつで揺らぐような関係じゃないんで、心配ないです。」

「そういう問題じゃないんだけどな。。彼女の方は、いつも「貴方のために着てます」ってかっこうしてんじゃん。ひとみのところに来るときだって、ママ受け最高の彼女服だったぞ。」
ひとみのところで会ったんだ、、。ママ受け最高って何だよ。
「あんな健気な子、「義明は、自分のために何も努力してくれてない」って気がついちゃったら、他の男にさらわれんぞ。だいたい、お前、そもそもが略奪したんだろ。」
略奪したつもりはなかったが、そういうことになってしまっているかもしれない。
「彼女には、俺のやり方で尽くしてるんで、大丈夫です。警告は聞いときます。車はありがたく下請けさせてもらうことにします。ひとみづてにお金払います。ひとみに隠し事になっても嫌だし。」
前嶋さんは、嫌な顔をした。
前嶋さんは、はっきり言わなかったけど、ひとみとうまくいって浮かれてるのかとおもっていた。違ったのか??
「ひとみと何かありましたか??」
「お前さ、、お前、俺の息子になることになった。だから、ひとみのことは、お母さんと呼べ!!」
そっちが不機嫌の原因らしい。。
俺は、即答した。
「嫌だよ」

前嶋さんは、不愉快な顔で黙り混んだ。
「結婚するなら、祝福するよ。前嶋さんのこと、お父さんて呼んでもいいよ。でも、今までの親子関係に口出しされるのは断る。」
前嶋さんは、、ぐっと何か飲み込んだ後、とんでもないこと言い出した。

「俺さ、お前が店に出入りするようになるまでは、ひとみのこと、諦めてたんだよ。未亡人だけど、すごく頑張って母親やってる人だし、母親ってのは、俺の中で神聖なもんでさ。。手は出しちゃいけないというか。。お前の写真見せてくれる時も、可愛がってるのめちゃめちゃ分かるしさ。」
「それで??」
「でもさ、お前はでかいし、名前で呼びあってたら、恋人みたいに見えるだろ。彼女が年相応の旦那とイチャイチャしてるなら、諦めもつくけど、お前とイチャイチャやられたら、何か、諦めつくものもつかなくなんだよ。。」
「ひとみも、何かと俺のせいにするんです。結局やりたいようにやるなら、俺を言い訳にするのはやめて下さい。」
「そういう訳じゃないけどな。」
「何か、ちょっと腹が立ったので、やっぱりお金払うのは止めます。ありがたく頂戴します。後、家族と女の話題は、父親が息子にすべき話に限ってください。ひとみのこと、ちゃんと大事にして下さい。俺は、ひとみが前嶋さん選ぶ限りは前嶋さんの味方だし、前嶋さんは、経営者として尊敬してるんで、あんまり小さいとこ見たくないです。」

前嶋さんは、ちょっと考えた後、口元に手の甲をあてたまま、
「なるほど。じゃ、お前も、俺のこと、下の名前で呼べ。」と言った。
「話、180度変わりますね。」
「お前のレスポンス反映して、こっちも変えてやってんだよ。」

「感謝しろっ」と、前嶋さんは、言った。
信号で、また、車が止まる。
「俺達、絶対に親子には見えないですよね。」俺が呟くと、前嶋さんは、ダッシュボードからサングラスを取り出して俺の顔にかけた。

「俺さ、息子とお揃い着て歩いてたら、「若いお父さんですねー」って言われるのが夢だったんだよ。」
「絶対にお揃いとか着ないですよ。」
「つれないよな。。」
「だって、前嶋さんは、お父さんとお揃いとか着るんですか??」
「、、、。着ないな。おやじははげてるからな。」
「そういう問題、、。バチが当たりますよ。そのうち。」
「お前、勘違いしてるけど、俺が言ったんじゃない。親父が「お前には似合うけど、俺には似合わない。はげてるからな」って言い出したんだ。子どもの頃はお揃い着てたぞ。結構でかくなってからも、服はよく一緒に買いに行ったし、スーツとか、靴とか、時計とか、親父がくれたもんは、今でも大事にしてる。」
「そっか。」
「だから、お前も、一瞬迷惑だと思っても、親父がくれるもんは、素直にもらっとけよ。ちゃんと、お前が周りに愛されるように、選んでるわけだからさ。はじめは分からなくても、使ってるうちに分かることもあるんじゃん。」
「そうですね。。」
前嶋さんには、今までも、お古の服をもらったことがある。以外と、よく着ている。
「今度さ、一緒に買い物行こう。そのサングラスも、車と一緒にやるよ。これ、天気が良いと、ボンネットキラキラして目が眩むんだ。」
「ありがとうございます。でも、似合わなすぎて、コントに出てくるお笑い芸人の小物みたいになってます。俺の中で、ハゲたのと同じくらいの衝撃です。面白そうだから、物によって、お揃いも付き合いますよ。」
前嶋さんは、笑った。

何か、前途は多難な気がしたが、前嶋さんがニコニコしてれば、何とでもなる気もした。多少ひとみが苦労するのも、ひとみのせいだから、しょうがない。
俺は、やっぱり、アニキとして、前嶋さんが好きだ。

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