くまさんとうさぎさんの秘密
心(ジェンダー)
by 柳瀬 隆司

フワフワして、綿菓子みたいで、キラキラして、嬉しい顔が弾ける。女の子は、可愛くてしょうがない。
女の子が着る物は、品がないといけない。可愛くて、でも、一人一人、ちゃんと守られて、大切に扱われなければいけないと思う。

俺は、卒業製作のモデル確保の目的もあって、衣装とメークと技術提供しつつ、趣味で演奏にも参加させてもらってる。ドラムは、好きだ。みやこが部長になってから、居心地が良いし、多分、みやこの卒業くらいまでは、自分の卒業後も続けて良いかと思う。

みやこは、俺たちより一年長く学生することになる。

早めに行って手際よく準備しておけば、メークの練習させてくれるし、衣装にも袖を通してもらえる。元々が、アピールしたい子達だ。

そういう訳で、放課後は忙しいから、学校には早めに行って、課題をこなす。課題を終えてから教室に入っても、大抵は一番乗りだ。

今日も、当然教室は空っぽだろうと思っていた。栄養補助食品つまもみながらブログ更新しようなどと考えながら、扉を開く。ところが、この日、見覚えのある後ろ姿がそこにあった。

がらは悪いが、色気とセンスがある男。。

きよしが、教室の中でタバコを吸っていた。
きよしは、何にでもいつも少し遅れてくるから、まず二人きりになることはない。栞ちゃんがやめてからは、軽音にも出入りもなくなっていたから、そちらでも会わなかった。
奴と二人きりになったとしたら、奴に目的がある時だ。。

「きよし、珍しいじゃん。」と、俺がつぶやくと、奴も俺に気がついて振り返った。
「授業に来なきゃ単位出せないって言うんだよ。」
奴は、言った。
「お疲れ。」きよしの目的が明確になって、ちょっとホッとする。
「卒業してもしなくても、就職は決まってんだよ。リュウジだってそうだろ。俺なんてほっといたって就職実績になるんだから、ほっとけっての。」
「俺は、、そうもいかない。母さんには、「つてやらこねやらあるからこそ、紹介する人を裏切っちゃいけない」って言われてる。卒業できなきゃ辞退させられるかもだよ。」
「俺だって同じことだ。めちゃめちゃ顔潰すし、影じゃ色々言うやつもいるだろうけど、表立って俺に文句言えるやつはいないさ。言えるもんなら言ってみろってんだ。」
「そっか。お疲れ。」
「何か、つまんねー上に嫌みだな。」
「別に、お互い乗りきろうくらいの意味しかないよ。」
「お互いって、、優等生には関係ない事だろうよ。」
「絡むなよ。、タバコ、人が来る前にやめないと、ややこしい事になる。禁煙だぞ。。」
きよしは、めんどくさそうに、携帯灰皿にタバコをねじこむ。きよしは、昔から、ヤンキーっぽいんだけど、携帯灰皿を持ってるような細かいところもある。
「うるさいよ。最近生意気じゃん。女ができたって聞いた。バイクのケツに乗せたって??誰も乗せたことなかったのに。」
「そんなんじゃないよ。」と、俺は言った。みやこの事だろう。。
きよしは、立ち上がってこちらに歩いてきた。

俺には、トラウマがある。だから、きよしに近寄られると、心臓がバクバクする。俺が後ずさりするのを見て、きよしは、にやっと笑った。
「お前、、まだ俺が怖いの??」
「違うよっそんなことないっ」
「じゃあ、、逃げるなよ。」奴は、今度は、真顔で言って、流し目をくれる。それから、慣れた手つきで俺を引き寄せた。

危機感は、気のせいじゃない。早く、本気で、たとえ情けなくてもカッコ悪くても、逃げ出すべきだった。

と言うのも、、中学校時代に、強烈なファーストキスを俺にかましたのは、他ならぬきよしだった。

「んっっっ」

キス。

優しい、でも、入り込んでくる、それから、境目が分からなくなるような、エロい。そんな、キス。
時間が止まった。
中学時代がフラッシュバックする。


慌てて突き飛ばそうとするけど、腕力では叶わない。
でも、それでも、抵抗することで、キスを止めさせることはできた。
腰砕けで、奴の腕にすがるように顔を背けている状態。

「女ができて、体質変わったかと思った。」

きよしは、したなめずりした。

「変わったよ。あの頃とは違う。俺、女の子好きなんだ。」

「あっそ?。まあ、何でも良いよ。俺は、お前がこっち落ちてくるの待ってるからな。いつでも。」
無理強いはしないと、きよしは言った。
よく言う。
俺は中学時代、キスだけじゃない。奴にかなり体を触られてる。怖いとは伝えたけれど、、それだけではやめてもらえなかった。

俺は、、奴も、自分の体も、いまだに怖い。
振り絞るように、声を出した。
「栞ちゃんは??そんな事したら、栞ちゃんが傷つくよ。」
「あいつは、そんな事気にしない。気になったって言わないし、言わせない。」

「何で付き合ってんの??」

「お前の紹介だからだろ。」

「何でそんな歪んでんだよ。」

きよしは、笑った。

「お前、俺が栞といちゃついてるとき、自分がどんな顔してるか知ってる??」

「、、っっっ。」
それは、薄々自分でも分かってた。。きよしには、きよしのすじの通し方がある。

「酷いのはお前なんだよ。」と、きよしは言った。

その後、すぐに人が入ってきて、奴は、何事も無かったように席についた。
部屋の中にタバコの匂いが残っている。残っているけれど、誰も何も言わない。

栞ちゃんには、きよしを紹介してくれと何度も頼まれた。そもそも、きよしと俺とがこじれた関係だったから、始めは断った。

でも、彼女は、諦めなかった。「紹介さえしてくれれば、振り向いてもらう自信はあるから。自分でがんばるから。」と、キラキラの笑顔で言った。冬至の彼女は、セミロング肩のところでこてでまいて、めちゃめちゃ可愛かった。ザ、女子。

始めは、栞ちゃんを守らなきゃいけないと思った。栞ちゃんの、キラキラも、栞ちゃんの心も。
彼女は、知らなくて良いし、気がつかなくて良いと思った。栞ちゃんは、大事な友達だったから。

だけど、栞ちゃんが、俺の周りチョロチョロすると、きよしが機嫌を崩す。
その当時は分からなかったけど、今は分かる。奴は、俺に恋人ができるのが嫌だったんだ。もう、板挟みになってやりきれなくなって、とうとう、きよしが割り込んできたときに、栞ちゃんを紹介して、俺は逃げた。

きよしは、始めは、気のないそぶりを見せたが、、栞ちゃんの予告通り、すぐに付き合い始めた。
正直、俺は、ホッとした。
その反面、栞ちゃんを守らなきゃならないと思ってた自分がバカらしくなった。
だって、女なら、受け止められるんだ。
栞ちゃんは、きよしと付き合いはじめてから、長かった髪をさっぱり切って、ショートカットにした。それだって、めちゃめちゃ可愛かった。
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