くまさんとうさぎさんの秘密

気の迷い

by 熊谷 義明

時田さんは、ちょっと浮かれていた。
「夏休みは、休むことにしたよ」と、彼は言った。
つまり、先生とうまくいったから、しばらくは彼女との時間を取りたいということなんだ。
両家に挨拶に行って、秋には会社に報告する予定なのだそうだ。
そういう訳で、本当にぽっかりと空き時間になってしまった。

部屋の中は静まり返っている。
ここは、寝るためだけの部屋だから、家具はほとんど置いていない。
ここのところ、いろいろあったし、昨日も忙しかったから、四の五の考える前に寝てしまった。けれど、、これは、モロに女の子を下宿に連れ込んでる状態だ。
ひとみはいない。

ひとみが倒れて、ずいぶん落ち込んだ。
「俺に預けてくれ。」と、前嶋さんに言われて、自分への自虐的な気持ちも手伝って、彼に託して帰宅した。。

宇佐美とは、手をつないで寝た。下心が無かったかと言われれば、嘘になる。俺は、この子が好きだ。昨日は、落ち込んでる俺の話を聞いてくれていた。よく分からないといった顔をしながら、でも、ずっと聞いてくれた。

今朝は、現状俺のとなりで、宇佐美が無防備な姿をさらしている。はだけて見えてる寝巻きのパンツの後ろに、フリルとレースが付いてる。。誰がこんなとこにフリルを縫い付けるんだろう。

このフリルとレースには、既視感がある。
ちびの頃のイチゴ狩りの日だ。
ずっと後ろからよちよちとついてくるので、ふと、振り替えって、こちらからふざけて追いかけてやったら、キャッキャと喜んで逃げ始めた。短いスカートの下にヒラヒラブルマ、トレーニングパンツのおしり。何であんなにひらひら着いてるんだろう。。

「全く。。」
男子は、ヒラヒラしてるものやらキラキラチラチラ動くものに目が行くらしいけど、高校で再会した時は、もうちょい男受けしない服着てなかったっけ。。

宇佐美は、枕元に耳飾り外して置いていた。リュウジも、ただのファッションオタクかと思って放置していたけれど、あのつっかかりようは普通じゃない。
挑発されてる。
「マーキングされて来やがって。。」
リュウジが宇佐美に身に付けさせているものは、センスが良い。似合ってんなあとか、可愛いなあとか思うと、またリュウジだから、ちょっとイラッとする。
これに勝てるものを身に付けさせるというのは、ちょっとハードルが高い。
宇佐美がそれで笑顔になるんだから、どうしようもない。。

あんな女心くすぐるのが仕事の男相手に、何ができるのか。。

俺には、制約がある。
「23までは、お付き合い約束はしてはいけない」ってやつ。これも、ひとみ語録だが、実は、この約束には、続きがある。
「23までは、友達を増やせ。好きになったら、優しくするのはOK」ということだ。
つまり、この約束を忠実に守ると、俺は、宇佐美に約束を交わすことは無理だけど、、
態度で伝え続けて23まで続いたら、次のステップに行動を起こして良いということだ。

「ひとみ語録」と、宇佐美は言った。俺は、何度もひとみとの約束に救われて来てるから、この一線を越えることは、俺のなかで1つのタブーだ。

時々、もうこんな約束にしばられなくて良いんじゃないかと思ったりする。俺だって、周りは誰もそんな事言われてないことくらい知ってる。

でも、昔話の世界では、約束を守らなかった男は、とんでもない目に合う。
周りには、マザコンと笑われるし、告白してくれた子に断った時も、理由を話すと変な顔をされた。でもまあ、あまり深く考えなかったけど、失礼なく断れたと思う。

大学に入ってからは、「元カレ」なんて言葉もよく聞く。だから、23まで、というのは、「守れない約束はするな」という意味なのかもしれない。

宇佐美との距離は難しい。
時々、好意は感じる。でも、他の男とどうこうなるようなことも無いとは限らないから、ちょっと焦ったりもする。宇佐美家は、熊谷家よりも奔放な感じがする。気持ちを確かめれば、もう少しはっきりする。一旦約束すれば、守ってくれる子だとも思う。

これくらい許されるだろうと思って、もう一度彼女の手を握った。それから、










< 94 / 138 >

この作品をシェア

pagetop